リビングに集った6人の兄達と共に朝食を済まし
いつもより早い9時辺りになる頃、そろそろ行こうかと玄関へ向かい始めた。

「簡易ピザパン美味かったわまた作って」(岩本
「ホントですか?そしたらまた作りますね」
「楽しみにしてるよ」(ふっか

玄関に向かいながらの会話。
兄達にそう言って貰えると凄く嬉しいから励みになる。

時短メニューとして作ってみたものが好評なのは作り甲斐もあるしね。
嬉しい気持ちを言葉にしたを珍しく深澤の手が撫でて行く。
その撫で方は照とは違い、軽く触れるだけの優しい撫で方だ。

自分より10pくらい背の高い深澤は、を見る時伏し目がちになる。
顔の角度も若干下を向くのだが、その角度が凄く綺麗に見えて驚いた。

この角度と伏し目がちなふっかさん狡いな――

とか思っている昨今、本人に言う予定は未定。
撫でた深澤の手はすぐに離れ、少しその軌跡を追う。
靴を履く際の横顔も中々に良い感じだ(何の話

ジッと眺めていたら急に髪をワシャワシャ乱された。
わあって吃驚はするがそれが誰の仕業なのかはすぐ気づく。

「ちょっ・・照兄さん、乱暴ですねえ」
「いや何かふっかの事見つめてるからさ驚かせたくなっただけ」
「むー、ちょっと好きな角度を発見してただけですよ」
「好きな角度?」
「はい」

相手を見て確認しなくても犯人は知れている。
頭をワシャワシャする大きな手を掴んで引き剥がせばクシャっとした笑みを見つけた。
いつの間に横に来たのか、長身の兄照の姿が在る。

隠すほどの事でもないと判断し、見ていた理由を説明した。
その間に兄達は此方に手を振りながら靴を履いた順に外へ出て行く。
なので必然的に照とだけが家の中に残された。

まだ私の横に居る照兄さんに、行かなくていいのかという目線を送る。
そしたら目線に気づいた照兄さんと目が合った。

「ん?何、俺の好きな角度も見つけた?」

って言ってまたクシャッと笑う。
もう大分見慣れて来たその笑顔は謎の動悸とざわめきを齎す。
何だこれ、と思うが原因は不明だ。

取り敢えず時間が押してる気もするので
ニコニコしながら聞いてくる照兄さんの背を押しやった。

「まだ見つけてないです、取り敢えず遅れたら大変ですから行って来て下さい」
「えー、まあいっか・・じゃあ行ってくる」
「気をつけて行って来て下さいね」
「おう・・17時からの記者会見、しっかり見ろよ?」
「勿論です、今から楽しみにしてますから」
「ん、それじゃあな」

面白くなさそうに口を尖らす様は、年上なのに可愛らしい。
迫力のある顔つきで体格も恵まれた感じなのに、話すとこのギャップだ。
でも立ち去り際に頭を撫でて行く時の顔は、可愛らしい時とは違い・・何とも言えない表情をする。

誰かの頭を撫でる時はいつもこんな表情をするのかな、と気にしている自分がいた。
玄関から外へ消えて行く大きな背中、そして静かになる家。
暫くはこの落差に慣れそうにないなと思うだった。


+++


シェアハウスから出発した移動車の中。
各々に時間を潰したり雑談したりするメンバーの中で照は少し考えていた。

深澤を目で追うように眺めていたに気づいた時
何故あんなにも心がざわついたのか。
の意識を此方に向けようとするみたいに強引な撫で方をしてまで。
自分の方を見ろと言わんばかりのやり方が我ながら子供じみて笑えた。

分からん。

考えても今自分自身でこれだと思う答えを導き出せそうになかった。
好きな角度か・・・変な事考えるもんだな。

何れ俺の好きな角度とやらも見つけてくれんのかな。
そしたらふっかを見てたように、目で追ってくれたりするんだろうか。
って、何でこんな事ばかり考えさせられてるんだろね。

まあいいや、今は考えても埒が明かない。
稽古場に着くまで少し寝とこう。

そう自己完結すると、雑談で盛り上がるメンバーには混ざらず
座席に深く座る体勢に変え、肩を竦めるようにして身を縮めると目を瞑った。


移動車に揺られる事20分ちょい。
最初の予定である滝沢歌舞伎の稽古場へ到着した。
運転手に礼を言い次々と車を下りて行くメンバー

思ったより眠っていたのか、メンバーの1人に肩を揺さぶられ目を覚ます。
寝起きの目で捉えたのは阿部の姿、今気づいたが自分の隣に阿部が座っていらしい。
通路側に自分が座った為、窓側にいた阿部は到着しても下りれず起こしたのだろう。

「――やべ・・マジ寝してたわサンキュ、阿部」
「別にいいよ、照も疲れてるんだろうしさ」

ハッと気づいて謝れば、文句を言うでもなく同調。
こういう返しを自然に出来る阿部と居るのは居心地も良い。
タメというのも加わって一緒に居て楽だったりする。

だからこそでもないが、ぶつかる時は本音が出やすい。
それもあってあの時は手が出てしまったという・・・感じかな。

阿部と共に最後に移動車から下り、急ぎ足で稽古場へ入る。
何となくだが久し振りに此処に来たみたいな感覚に陥った。
だが浦島太郎状態になっている場合ではないと気を引き締める。

エレベーターで稽古場兼控室へと向かい、スタッフや共演者達に挨拶。
それから奥に居る座長と三宅らに挨拶を済ました。
の事もあり、少し気まずさも感じたが稽古場に来たからにはその気持ちに蓋をする。

稽古場では皆準備体操をしたり、動きを自主的に確認したりしている。
その中には久し振りに見る目黒の姿もあった。

後から知ったのだが、目黒は本来出演者ではなかったらしい。
急遽代役で出演が決まった別グループに属するJr。
(実際は本番前夜の23時頃出演が決まり、振り立ち位置を半日で頭に叩き込んだ)

相当な負けず嫌いの努力家、という認識を照は目黒に抱いている。
ああいう奴は嫌いじゃないかな。

ただ今は少しだけ複雑な気持ちを持っている。
奴が悪い訳じゃないのは分かっているが、それでもモヤモヤさせられた。
幾ら尊敬する滝沢だとしても、一般人として生活するを探るような行為に納得が行かない。

本来なら喜ぶ事かもしれないが、それでも複雑な事に変わりはなかった。
あれこれ考えてしまう前に気持ちを切り替え、稽古着に照は着替え始めた。

今日は15時くらいまで稽古を行う。
終えたらすぐに着替えてYouTubeの本社へ向かうのだ。
色々思う所はあるが、今は目の前の事に集中する事とした。


その頃シェアハウスにてインターネットを通して講義を受ける
久し振りに連絡の取れた知人、静とLINEでやり取りをしていた。

ケガの具合を心配している静に、松葉杖は取れたよと返信。
明日から復帰する旨も伝えると自分の事のように喜んでくれた。
彼女のような知人を得た事、それはきっと兄達と知り合い自分が少し変われたからだと感じている。

今までずっと立ち向かおうとせず、ただ黙って耐えて来た事も変えたいと強く思った。
私にはどんな時でも味方で居てくれる人達が居るんだと。
在りのままの自分を知り、受け入れてくれた人達に応えたいと思ったから周りの環境もそれに応えてくれた。
少なくとも今私はそう思うようにしている。

¨明日大学院で会えるのを楽しみにしてるよ¨

という文面でLINEは終わった。
先ず静が変わらず連絡をくれた事、待っててくれる事が嬉しくて胸がいっぱいになった。
行くのは正直不安しかないが、そんな中少なくとも静という味方が1人いるだけで心強い。

そして他にも数十人の院生達が遠くからだが自分の事を見守ってくれる。
招待入学したばかりの頃からは想像も出来ない未来だ。

捻挫の方もサポーターで足首を固定すれば何とでもなるだろう。
行くのが楽しみだが不安もついて回る、兎に角明日は講師や院生の協力者を信じるしかない。
私の大学院生活は幕を開けたばかりだ・・2年間を無事終える為の踏ん張り処が今なんだと思う。

インターネット授業を全て終える頃は15時を過ぎていた。
確か記者会見開始は17時だったはず、まだ時間はあるから家の事を済ましておこう。
個室から出たが向かったのは洗面所にある乾燥機。
このシェアハウスで洗濯物は外干ししない。

兄達は芸能人でジャニーズだ・・此処にはファンもたくさん来る。
そんな彼女らに兄達の洗濯物を見せたらエライ事になるのは明白だ。
仮に外に干したとして、兄達は皆不定期な帰宅時間の仕事をしているから干せたもんじゃないだろう。

なのでシェアハウス内に洗濯物を干す為だけの空間がある。
そのスペースは2階のエレベーターがある奥。
照と佐久間の個室の間にある謎空間に洗濯物を干すスペースがあったりします。

各自自分の出した洗濯物は自分で洗濯し、ここへ干している。
の場合性別を偽っているのもあり、こうして兄達が居ない時にしか干す事は出来ない。


そして時を同じくし、稽古を時間通り終えた照達は
早々に座長滝沢や三宅、スタッフ達に挨拶し稽古場から控室に移動。
移動する際照と深澤が座長の滝沢に呼び止められた。

「2人は少し話があるから残ってくれ」

今の時期に残れと言われるとあまり良い予感はしない。
ダメ出しかはたまたコンサート関係の事か・・の事だろうか?

残れと言われた2人を4人が気づかわし気に見つめている。
その場に立って待つ照達の横を通り過ぎて行きつつ視線を合わして行く。
通りすぎずに足を止め、照らの傍に歩み寄るのは阿部と佐久間。

「・・照、ふっか」(阿部
「んな顔すんな、ちゃんと後から行くから先に着替えて待ってろ」(岩本
「うん、分かった支度して待ってる」(阿部
「ダメ出しかもしれないからその辺はちゃんとメモして皆と共有するよ」(ふっか
「分かった、じゃあ先に行ってるぜ」(佐久間

心配そうな声音の阿部を安心させるように見やり、肩をポンと叩く照。
微かに笑む照に安心したのか素直に頷く阿部。

しっかりしているように見えても元末っ子、少し心配になったのだろう。
Snow Manを牽引して来た照と、その照を支えてサポートする深澤の2人は居るだけで安心感を与えている。

深澤は念の為にダメ出しされた時に使うメモ帳を用意。
そのメモ帳は照も常に持ち歩いている。
近くに居る佐久間にダメ出しだった場合はきちんと共有すると伝えた。

しかと聞いた佐久間は深澤と照へ頷き返し
まだ照の横で心配そうな顔をしている阿部の方へ行くと
次男坊らしさを発揮、自分より背の高い阿部の背中を安心させるみたいに撫でた。

「阿部ちゃん行こう?翔太と舘さまが待ってる」
「うんそうだね、じゃあ・・なるべく早めに来てね?」

佐久間に促され歩き出した阿部の肩を深澤も叩き
照は阿部の頭をポンとさせて送り出した。
そうしてから三宅との打ち合わせを済ましている滝沢を待つ。

にしてもあの心配そうな顔の阿部は軽く女子だったな(は?

そんな事はまあいいとして、一体何の話なのかが気になる。
しかも今回は照だけでなく深澤にも残るように指示があったのも気になった。

待つ事数分、三宅と話を終えた滝沢が残るよう言った照らの方へ歩いてくる。
ダメ出しなのかそれとも別の用件なのか、固唾を飲んで滝沢からの言葉を待つ2人に
ある意味予想を裏切る言葉、だが聞かれる可能性も予想していた言葉を滝沢は口にした。