今までより一層絆の深まった昨夜を経て迎えた3月20日。
ついに新しいデジタルの時代を迎える日が来た。
過去、ずっとメディア露出をせず、秘密のヴェールに包まれていたジャニーズの世界。

それが今日ついに劇的に変わる為の第一歩を踏み出すのだ。
去年に既にSixTONESが広告塔となり先駆者になっている。
その総仕上げが今日となるはず。

今日はリハ入りして打ち合わせしたらすぐ本番となる。
事前に舞台の稽古もある為いつもより早い出発時間になるからか皆早起きだ。

会場入りは午後16時、本番は17時開始となる。
勿論開始まで時間はあるが、その間近まで此処に居る事は出来ない。
まだ来月に始まる滝沢歌舞伎の準備もあるし稽古もしなくてはならないからだ。

時刻は朝の7時、いつものように朝ごはんを作る為宮舘が起床。
昨日は中々に有意義な日だったな、と振り返りつつ廊下を洗面所目指して進む。

耳と目が優れ、記憶力も並外れて高い末弟。
その優れた能力は昨日初めて目にした。

確かに照も言っていたように、妬む者嫉む者も居ただろう。
それらから自分を守る為に彼は誰にも話さず、隠して来た。
まあちょっと驚いたし、圧倒されたのは確かだね。

羨ましいと感じる者も居たかもしれない。
でもその言葉が彼にとっては鋭い刃になって数えきれない傷になっていた。
人が何に傷つき、どんな事で励まされ救いになるのかはその人にしか分からない。
言葉は諸刃の剣だ・・使い方を間違うと人を傷つけ苦しめてしまう。

かと言って全ての言葉に責任が持てるはずもなく
言葉を選んで話すにも限界はある。

でもいつ会えなくなるか分からないから
伝えたい事はきちんと伝えたいよね。

そう思った所で洗面所の扉を開けた宮舘。
顔を洗ったり歯を磨く前に洗濯でもしようかなと思い立った。
一度開けた扉を閉め、個室の方へUターン。

「おはよう、くん」
「あっ、宮舘さん・・」
「そうじゃないよね?」
「りょ涼太兄さんおはようございます!」
「ふふ・・おはよう」

Uターンした際、此方へ歩いてくるを見つけた宮舘。
今起きたばかりと分かるまだ眠そうな目。

昨日は色々と難しい話をさせてしまったし
ケガした足で簡単なダンスの動きもさせたからね・・疲れてるんだろう。

眠そうなは宮舘に気づくと挨拶し返したが癖で名字呼びをしてしまい
やんわりと訂正され、練習した呼び方に言い直した。
慣れない感じが初々しくて宮舘から笑みが毀れる。

が洗面所に向かうのを先読みし、扉を開けてやった。
ありがとうございます、と目を擦りながら歩いてくる
何となく危なっかしくて見つめていると、予感した通りにが何もない所で躓いた。

「ひょえっ」

間の抜けた声がの口から毀れる。
勿論予感していた宮舘の動きは無駄がなく、スッと片足を一歩踏み込ませ距離を縮めて受け止めた。

「――・・大丈夫?」
「うわぁはい!大丈夫です、有り難う涼太兄さん」
「松葉杖無しで歩けるようになったばかりなんだから気を付けて?」

宮舘の左肩に凭れるように受け止められた
めっちゃパニックになったがパニックの分類は違う。

怖さから来るものではなく、驚きと恥ずかしさから来るパニックだ。
顔を上げたら凄い近くにある宮舘の綺麗な顔、眠気も吹き飛ぶ美しさ。
宮舘の指摘通り、松葉杖無しで歩けるようにはなったが走る事は出来ない。

取り敢えず支えて貰いながら体勢を正した
気を付けます、と宮舘に答えてお礼も口にする。

いいよ、気にしないで。
と言い残し、姿勢美しく宮舘は個室の方へ戻って行った。

入れ違いで洗面所に入り、顔を洗って歯を磨く。
食事の当番はこの日が誰とか決めてないから先に起きた方が作るようにしている。
今鉢合わせたから・・どっちが作るのか決めた方が良いよね?

タオルで顔を拭きながら思案し、洗面所から廊下に出ると個室に行ったはずの宮舘とまた合う。
今度は宮舘の手に洗濯物らしき袋が握られていた。
それを見た、個室に戻ったのはそれを取りに行ったからかと理解。

くん、ちょっと洗濯機の設定見て貰えるかな」

目が合うとにこやかに宮舘が言った。

「あ、はい良いですよ」
「助かるよ有り難う、ちょっと使い慣れなくてね」

私より長く住んでる涼太兄さんが慣れない洗濯機の操作を私が分かるかな
と一瞬だけ心配になる
でも頼られた感じがして嬉しくなり、また洗面所に戻る。

続いて宮舘も洗面所に入り、洗濯機の蓋を開け持って来た洗濯物を入れる。
それから洗剤ボールを取り出す宮舘がを見やると口を開いた。

「この分量なら1つだけでいいんだっけ」

なるほど?洗剤の量が分かり難いのかな?
問われたはどれどれ?と洗剤の箱を確認。
其処には洗濯物の量に合わせた洗剤ボールの数が書かれていた。

「はい、1つで大丈夫ですね・・それから柔軟剤とかはこの隅の此処から入れるといいですよ」
「ああ〜本当だ、この隅から流し込むんだったんだね助かったよ」

操作の他に柔軟剤の投入口を教えたりと和やかなやり取りが続いた。
一通り説明を終え、洗濯スタートのボタンを押す。
自動で水が掻い込まれるのを見届けてから2人して洗面所を出た。

ゆっくり歩き出すの背を眺め、宮舘は少し目を細めた。
受け止めた時に感じた細さと骨格とか色々(

17を迎える男子にしてはやはり骨太さが無いんだよね・・・
手の甲も筋張っていないし喉仏もない。
まあまだ成長期だから少し発達が遅れているだけかもしれないけど・・うん。

探るような眼差しで前を歩くの背中を眺める。
でもまあ、今は見守るのみ。
余計な詮索がくんを傷つけてしまうかもしれないからね。

ゆっくりと手摺を触りながら階段の前へ立つに宮舘も追いつく。
横に並ぶようにして下りようとした時、宮舘はの表情に何かを感じた。

少し顔色が悪いばかりか唇を噛み締め中々一歩を踏み出せずにいる。
その瞬間ピンと来た宮舘。
ほんの3日前、は大学院の階段から転落している。

知人の子を助けようとして転げ落ちた、段数は少なかったらしいがこのハウスの階段は15段。
中々の高さがあるし、転落した時の恐怖心も簡単には抜け切らないだろう。
ここ最近は照が背負ったり、または阿部と照で付き添うようにしていたから下りれたのかもしれない。

階段は上れても下りる事に恐怖を感じてるのは瞬時に察した。
察するや宮舘は自然な動作で立ち竦むの腕をそっと取り

は知ってる?このシェアハウスにはエレベーターがあるんだって」
「え・・あ、知ってますこの前亮兄さんが教えてくれました!」
「そうだったんだ、どの辺にあるの?俺あるのは知ってるけど乗った事が無いんだ」
「亮兄さんも言ってましたよ、皆あるのを知らないって」
「良ければ俺と一緒に乗って行かない?」
「――はい!俺が案内しますね」

実に自然にエレベーターの話にすり替えた宮舘。
手に取った腕を後ろへ引き、の注意を自分へ向ける。
意識が階段から逸れる事で笑顔がに戻り、エレベーターの話を始めた。

笑ってくれた事に宮舘も密かに安堵、案内を始めたの横を歩き
既に存在を知っているエレベーターの場所へついて行った。
照の部屋を過ぎ、佐久間の部屋に行く間にある空間の前では足を止める。

謎の扉があるそのスペース、今までは物置かと考えていたそこがエレベーターだった。
壁と一体化したように見えるところから隠されたボタンが現れ、それを押す。

「これは気付き難いねぇ」

思わずそう呟く宮舘にも同意した、阿部に教えられるまで気付かなかったと。
確かにこれは近くに寄って注意深く見ないと気付かないだろう。
何故こんなにも気付き難いエレベーターのボタンにしたのかは謎。

取り敢えず先に乗り込み、中の開閉ボタンを押したままが乗るのを待つ宮舘。
中は洋風なシェアハウスに合わせた造りで上品な木目調の壁面だ。
階数の表示されたパネル側は壁面が鏡になっている。

到着音と共に1階へ到着したエレベーター。
扉は自動で開閉し、宮舘は開くのボタンを押したままに出るようジェスチャーした。

「ありがとうございます涼太兄さん」
「お礼を言われるような事はしていないよ」
「それでもありがとうです」
「ふふ・・それじゃあ簡単な朝食の支度を手伝って貰おうかな」
「お安い御用です!」

には何となくだが宮舘が気を遣い、階段じゃなくエレベーターを提案したのだと察していた。
周りをよく見ている宮舘ならではの気づきだと思う。
宮舘がと言うより、6人の兄達全員が周りをよく見ているとは感じていた。

その点で言うと自分と背の近い兄、佐久間もよく周りを見ている人だと感じる。
場の空気を読み取り空気が重くなり過ぎないよう気を回し
自ら先陣を切ってリスクを恐れず空気を変えに飛び込んで行くのだ。

他5人が佐久間の事をよく理解しているからこそフォローを欠かさない。
互いが互いを理解し、尊重し合っている兄達は尊敬の対象だ。

翔太や照は率先して佐久間を弄り、また注意したりと役割分担も完成されている。
細かなフォローを宮舘や阿部がこなし、全体のフォローを深澤が務めるといったところだ。

エレベーターを出てキッチンとリビングへのガラス戸を開く。
まだ誰も居ないリビングは静まっていて薄暗い。
の横を通り抜けた宮舘が締めてあるカーテンとブラインドを開けた。

厚いカーテンとブラインドを開けると、眩しい朝陽が差し込んで来る。
これは稽古日和だね、と内心で呟く宮舘。

「今日くんはリモート授業かな?」
「あ、はいそうですね今日までがインターネット授業です」
「なるほど、回線を通じて講義を受ける感じだね」
「そうです終わったら兄さん達の記者会見も拝見させて頂きます」

キッチンへ歩きながら既にそこに立つに問う。
たった3日で捻挫が治るとは思えないが期限は期限だ。
心配は残るがそれこそ自分達6人で支えてやるつもりでいる。

は既に滝沢から今日の記者会見の話を伝え聞いていた。
それなら話は早い、と言うか・・教えてる辺りがまた手回しの早い・・・

けどまあが見てると思えば自分達の励みにもなる。
そう考えれるようになった事に対し、若干の成長を感じた。

それから簡単に朝食を作ろうという流れになる。
今日の朝食は瑞々しいサラダがメインの洋食。
出発がいつもより早くなる事を踏まえ、手間の掛からないものにする。

コンソメスープを作る宮舘の傍ら、は食パンを7枚取り出す。
役割を分担した訳ではないが、スープから作り始めた宮舘を見てから決めた。
7枚の食パン1つ1つにマヨネーズで真四角を端から描いて囲み、真ん中に卵を落とす。

マヨネーズでダムを作れば卵が毀れずに済むという訳だ。
そうして卵を乗せたパンを4枚ずつ入るトースターに入れてタイマーをセット。

カリッと5分くらい焼けば、簡単なピザパンが完成する。
お好みで焼く前にベーコンやらトッピングするのも良いだろう。
そうして焼く事7枚、宮舘も手早くコンソメスープを完成させた。

「ふあああ良い匂いいいい」(佐久間

朝食が完成したタイミングで珍しくトップバッターで現れたのは佐久間。
香ばしい香りが良い目覚ましになったのだろうか?

「大介兄さんおはようございます!」
「・・・っくうううう、大介兄さんとかマジ新鮮過ぎて萌えが止まらなーーい」(佐久間
「も、萌えですか」
「佐久間煩いよ、良いから早くテーブルに運んで」(舘さま
「舘さま厳しい(笑)はーい」(佐久間

気が付いて挨拶すれば大きな目で此方を凝視した佐久間。
感激したらしく1人感動に打ち震えている・・
反応に困るけど喜んでくれてるのが伝わり、的には嬉しい。

そんな佐久間を一刀両断する宮舘。
出発時間は早いんだからねと念を押すように急かした。

佐久間が返事を返し、自分の分の朝食をテーブルに運び終えた頃
次々と残りの兄達がリビングへと現れた。