見ながらなら弾けそう、というのは脳に記憶した映像をと言う意味。
目を閉じながら弾くのは、脳内に再生した映像を見ながら弾いているから。

まだぎこちないながらもは全てを寸分違わずに弾き切った。
何度か弾き込めば早いうちにモノにするだろうと思わせる正確さだった。
末恐ろしいなんて表現じゃ言い表せない・・

照が言葉を失くすのと同様、リビングから顔を覗かせ聴き入っていた5人も同じ。
全く違わぬ正確さで聴こえたメロディに、一瞬照が2回弾いたのかと思わせられた。

「これヤバくない?」(佐久間

静かな家の中に発せられた佐久間の言葉。
珍しく皆同意見らしく、反論も無い。
すぐに2人が来ない事も不思議だったが、次いで聴こえた曲に5人はハッとした。

貰ったばかりのオリジナル曲で、自分達の決意が籠められた歌詞。
これを照が弾いて見せたのは分かった。
次いで弾いたのがだというのも弾き方?で察したが・・・
初見と言うには無理すぎて誰しも言葉を失くしていた。

これでも初見なんです、と言ったら反感しか買わないだろう。
そのくらい照に続いて弾いたが凄すぎた。
まるで絶対音感でも持ってるかのような正確さに素直に脱帽。

「俺らの末っ子・・ヤバいね」(阿部
「だな、すげぇわ」(翔太
「料理も出来てピアノ弾ける、高校大学飛び級」(佐久間
「上智大学大学院に招待入学を受けた天才、これは拍しか付かないね」(舘さま
「覚えるのが早いっていうレベルじゃねぇなこりゃあ」(ふっか

口々に呟く5人、皆ただ笑うしかないっていう顔をして呟いていた。
一方の2階では見事初見でSnowDreamを弾き切った、それから言葉を失くしていた照。

「ひ・・弾けました」

のこんな言葉でハッと照は我に返った。
凄すぎて見入ってたわ・・・
初見なのでミスしたけど弾けました、とかのレベルじゃなかった訳で・・

兎に角凄い事だってのだけは分かった。
ただ気の利いたセリフが出て来ない。

で言葉を失くしている照の様子に戸惑っている。
と言うより不安になっていた。
フラッシュバックする過去の記憶が一層不安を煽る。

気持ち悪い怖い不気味、それらの心無い言葉を浴びせられて来た過去。
やっぱり弾いて見せなければよかった・・かな。
今までこういう部分を知った知人は何人も離れて行った。

どれだけ離れて行こうとも全く気にならなかったけど今は凄く怖い。
此処に来て皆と知り合い、温かな人達だと知れば知るほど
逆に嫌われたくない気持ちが強くなり、懼れるようになっていた。
私と言う人間を知り、その上で受け入れてくれた人達から違う目で見られたりするのは避けたい。

「あの・・照さん・・・?ごめんなさい、気持ち悪いですよね俺」
「は?え、何でそう思うの?」

沈黙に耐え兼ね、自分から兄へ聞いてみたら
思いの外早いリアクションが返され
物凄い怪訝そうな目を向けられた。

まさかの質問を質問で返されるとは・・・

どこがと聞かれてもそれはこの見たままの状況が、と言うしかない。
初見で聴いただけの曲を寸分の違いなく手本と同じに弾けるなんて芸当気味が悪いと思う。

「初見の曲を楽譜も読めないのにミスなく弾き切ったら不気味じゃないですか?気味悪いっていうか」

弾く前の照さんは明らかに困惑していたし・・。
私からすれば脳内にさっき見た照さんのお手本を再生してそれの通りに弾いただけ。
こう言ったら間違いなく怖がるか不気味に思うか、過去打ち明けた人達と同じ反応をするのが自然なのだ。

けど目の前の照さんの反応は、今までのどのパターンにも属さなかった。
イレギュラーな反応とか有り得ないし、気を使ってるだけかもと半ば決めつけ始める

この人は今までの人達と違うんだ、信頼してもいいのかも
と過去何回か感じた人はいたが皆上辺だけで、本心では不気味な奴と思ってたんだと後から知ったり
その度に傷つき、他人を信じる事を怖がるようになって行った。

「気味悪がってるように見える?」
「・・・気を遣って見えないようにしてたりするとかの可能性もありますよね」
「お前ねえ(笑)」
「もし遠慮してるならハッキリ言っちゃって下さい、俺そう言うの慣れてますから寧ろ気を遣われる方が嫌です」
「・・・・んな事に慣れてんじゃねぇよ、じゃあハッキリ言うぞ?」
「・・どんと来いです」

半ばムキになって照へ詰めよっていた
自分でも何でこんなムキになってるのかが分からない。

照さん達はそういう事言う人達じゃないのは分かってるのに
そうじゃないんだと私自身が強く思いたいんだと自覚もした。

対する照は、珍しく素直に受け取らず頑ななの様子に驚きを覚え
気持ち悪がられる事に慣れてるという言葉に対して
今までが受けて来た辛い過去を垣間見た気がした。

心無い言葉を浴びせられる事に慣れていい筈がない。
ただ自身がハッキリ言って欲しいと望むなら幾らでも言ってやろうと思った。

「お前の事、滝沢くんが誉めてた理由がハッキリ分かった」
「――え・・・」
「知ってるよ俺ら、が滝沢くんに招かれて見学に来た事」
「そうでしたか・・・皆さんに言わなくてごめんなさい」

ハッキリ言う流れで見学の事はもう知ってるとも明かした。
回りくどいのは好きじゃない。
それに謝って欲しい訳でもないからすぐ言い返した。

「確かに何も話してくれなかったのはショックだったけど俺らも話聞いてやれなくてごめんな」

忙しさにかまけて時間を作る事すら出来なかった自分達。
具体的にこういう仕事してるんだ、とも話さなかったからこれはお互い様だ。

これもいい機会かもしれない、折角今皆揃ってるんだ。
もうそろそろ、の話を聞いてやれたらいいんだがな・・・
謝る照を見上げたは何だか悲し気に視線を外した。

?」
「・・よく分からないんです、でも何となくだけど照さんのそういう顔見たくないなって」

の表情が気になったから聞いたのだが、返って来た言葉に照は意表を突かれた。
俺今どんな顔してたんだろう?眉間に皴でも寄ってたかな(鈍感

取り敢えず2人して真面目な顔をしてたら疲れるな、と気持ちを切り替える。
そうしてからにリビングで飯食おう?と先を促した。
折角苦手なものを聞いてまで作ってくれた料理が冷めてしまう。

その言葉でも夕ご飯の存在を思い出し、頷いてから松葉杖ナシで立ち上がる。
今までは両手で使っていたが、今は片手だけ使う形で済むくらいに回復してきたようだ。

先に照がドアを開け、を先に行かす。
少し待たせてからドアを閉めると、の隣に並び立ち横からサポートするようにして階段に立つ。
凄くナチュラルなサポートの仕方に自然とお礼を口にした

そうしながら階段を下りる途中、照は少し体を寄せると
がさっき問うた事に対する解を囁くように口にした。

「俺は気持ち悪いなんて思わないよ、あいつ等も・・それにすげぇ才能見せつけられたから負けてらんねぇなとは思ったかな」

柔らかい声で囁く照を、パッと顔を上げ食い入るように見つめた。
そう話す照の顔をどうしても目に焼き付けておきたいと思ったから。
やっぱり違った、目の前のこの人も・・・それから阿部先輩も深澤さんも翔太さんも・・宮舘さんも佐久間さんも。

なんて眩しく、それでいてキラキラした明るさで私を照らしてくれるんだろう。
それでいて、近くに居るけど遠く・・眩しい人達だと私は改めて感じた。

またよく分からない気持ちが私の中に芽生える。
照さんの笑顔は凄く眩しく見えるし、見てると胸が苦しくなるんだ。
何処に居ても輝いてて同時に自分の存在が凄くちっぽけなものに見えて来る。

光が無くても照さんが居れば正しい方へ歩いて行けると思わせる人。
皆を導く眩しい光だ・・それなら私は、そんな照さんが疲れてしまった時に照らす月のようになりたい。
なんて事が自然と頭に浮かび、気持ちの向くまま照さんをお兄ちゃんと呼びたくなる。

・・・・まだ難しいけどね・・・

「ありがとう、ございます」
「ん、よしメシにしようか!」
「はいっ」

元気よく返事をしたの頭をクシャッとした笑みで照が笑み
ワシャワシャと荒っぽく髪を乱す、私は照さんのこの笑顔が大好きだ。

少しでも照さんを癒せてればいいなあ・・


+++


そして夕飯を済ませた後、再び7人はレッスン場に集合した。
取り敢えず腹割って話そう、みたいな感じ。
もう既に軽く照の部屋で話した事を改めて皆と話し合う。

「そんじゃ先ずが俺らに聞きたい事あったら言ってみて」

床の上に車座になって座った後、代表して照が口を開いた。
既にこれも滝沢から聞いてしまったが敢えて本人の口から聞きたい。

照の言葉に少し視線を動かすと自分が話し始めるのを待つ6人と目が合う。
決して急かしたり茶化したりする風もなく、私から話すのを待っててくれてるのが分かる。

照さんは、滝沢さんから私が見学に来た事と
とても感心して下さっていた事は教えてくれた。
他にどんな話を滝沢さんとしたかは分からない・・それならこの際ずっと気になってた事を聞こう。

「怒らないで下さいね?」
「まあ良いから言ってみ?」(岩本
「俺らはの考えてる事とか心配な事不安な事を知りたいだけだから怒ったりはしないよ」(ふっか
「寧ろ黙ったまま何も言わないで居られる方が嫌かなー」(翔太
「そうだね、俺らはくんに我慢とかさせたい訳じゃないからね」(舘さま
「うんうん!言っても良いのかなとか思ったらすぐ俺らに教えてくれた方が俺らも嬉しい」(佐久間

どんなに言い淀んでしまっても、きっと彼らは待っててくれるだろう。
その感じは間違いなんかじゃないと思わせてくれるのが6人の兄達なんだと
今この瞬間の彼らを見て、強く私は心で感じ取った。

血の繋がりがなくても、ここまでお互いを理解し受け入れ尊重し合える人達って居るんだね・・!
今改めて思ったよ、本当・・・皆と兄弟になれた私は世界一幸せ者だって。

「・・照さんの言った通りでした」
「ん?俺の?」
「はい、ここには新しくこの家に来た末っ子の俺に喜んで貰いたいって思ってる兄ちゃんしか居ないって」
「へえ照そんな事言ってたんだ?」(阿部
「阿部うっさい(笑)」(岩本

急に感情が昂り、心が震えた。
阿部先輩にからかわれる照さんを見る視界が曇る。

こんなにも温かな空間に今私も居るんだ。
皆がありのままで過ごせる強い信頼関係で結ばれた6人
彼らと、ずっと居たい・・・心から今、思う。

でも私に与えられた期限は2年間のみ。
ならば儚くなる前に言わなきゃ後悔する――

「本当にその通りでした、優しいお・・おにい・・・さん達に喜んで貰いたいしもっと知りたいから話します!」

ついに私は言った・・・と思う!
皆さんの事を、お兄さん・・って。
ギュッと目を閉じて言ったから皆の反応はまだ見えない。

感情の昂りで毀れた涙を拭うのも忘れ、ただ皆の反応を待った。
嫌な顔とか戸惑った顔とかされたらどうしよう・・・
静寂と息を呑む音が聞こえてから数分・・いよいよ怖くなって目を開けたら点になった。

最初に目に入ったのは佐久間さん。
何故か私の真似するみたいに目を瞑り、直後両手で顔を覆った。

それに呼応するかのように深澤さんも¨くうっ¨って言った後に片腕で目許を隠す。
何が起きているんだ??という驚きで涙も止まった。
私の右側に座ってた宮舘さんと翔太さんは互いに肩を組んで頷き合っている・・(え

初めて見る皆のリアクションにただただ戸惑っていると
正面に座ってた照さん阿部先輩と目が合った。
私と目が合うと、2人して柔らかく微笑む(眩しい

「やっと呼んでくれたな」(岩本
「・・・ホントはもっと早く、そう呼んでみたかったんです・・今やっと勇気が出ました」
「ふふ、俺達もずっとそう呼んでくれるの待ってたから凄い嬉しいよ」(阿部
「照さ・・・えっと、照兄さんと・・・亮兄さん?」

何かくすぐったいね(笑)
ずっと呼びたかったのにいざ口にしたら凄く心がふわふわした。

3人で笑い合ってたら、感涙?から復活した4人に詰め寄られ
全員の事を語尾に兄さんを付けて呼ぶ練習をさせられましたとさ。
次回はいよいよ本題の方に移る事となるだろう。

少し身を引き締めてからはそこに臨む事とした。