ここ数日に渡り、濃密な3日間を過ごしたと私は思う。
明らかな敵意により私は階段から転落し、兄達の間にも何か揉め事があったりと・・
でもその分兄達と話しも出来た、研究科の事も少し聞いてもらえたしね。

「そろそろ迎えが来る頃だな」(岩本

阿部からの話しも終わる頃、時計を見ながら照が呟く。
つられるように皆が時間を確認、時計の針は9時18分を指している。

いつも通りならそろそろ門の前がざわざわして来る頃だ。
と思うのと同時くらいにざわざわし始めた外。
皆もその気配で送迎が来たと察知、ソファーから立ち上がり玄関へと向かい始めた。

久々に見送れる、まあ久々と言っても2日ぶりか・・でも久々ていう感覚だ。
松葉杖を使い私も立ち上がって皆の後について行く。

何やかんや話しながら靴を履いて、玄関の横に付いている鏡で身嗜みをチェック。
そんな兄達をぼんやりと眺める、皆カッコイイなあ・・・。
・・ってそうじゃないだろ私(笑)

1人突っ込みをがしてるとは知らない兄達がこっちを振り向く。
これも恒例の行動、兄達は家から出る直前こっちを向き私に言葉を掛けてから出て行くのだ。
些細な事だがそれだけでも嬉しい、ちゃんと私の事を家族の一員として見てくれてると分かるから。

「今日はいつもより早く帰れると思うけど、戸締りはしっかりな?」(岩本
「はい!」
「あー・・・・かわいい」(岩本
「照心の声が漏れてる」(阿部
「でも照がこんな風に言葉にするのって珍しいよな」(ふっか
「確かに珍しいな、ま、気持ちは分かる今日のは可愛い」(翔太
「いつもは?」(岩本・阿部・佐久間
「お前ら揚げ足取んな!」(翔太

見送れるこの時間は大事な瞬間で、声に気持ちが乗ってしまい
照の言葉に元気よく答えれば何故か目の前の照は口許を手で覆いながら横を向いている。

そんな照を横目で見た阿部が鋭く突っ込む。
便乗して同意した翔太の発した言葉に数人が乗っかる。
ニヤニヤして突っ込む元末っ子ズ+佐久間に対し、腕でヘッドロックをかける翔太。

朝から騒がしい光景だが、これすらも日常の一コマなので見てて微笑ましい。
その騒がしい光景を静かに眺める兄が1人。
宮舘はこういうノリの時にはあまり混ざろうとしないし混ざった図が想像出来ない人だ。

「ほら皆、そろそろ行こう?」(宮舘

俯瞰で皆を見る事が出来る宮舘の言葉で照達もはたと気づき応を返す。
荷物を手に改めてを見て仕切り直す皆がちょっと可愛かった。

「コホン、んじゃ行って来るわ」(岩本
「多分遅くても夕方には帰れると思うけど鍵は掛けとくように!」(ふっか
「行ってくるよ、もし何か心配になったら遠慮なくLINEするようにね」(阿部
「そうだね、もし不安な事とか心配事が出来た時点でLINEしといて俺らも今日はすぐ見れると思うから」(宮舘
「だな、今日は最終確認くらいだし遠慮すんな」(翔太
「うんうん、いつでもLINE飛ばして来い〜」(佐久間
「はい、皆も気を付けて」

6人からの言葉を受け取り、も元気よく応える。
兄達が心配な気持ちで出かけたりしなくて済むように。
不安はあるが、阿部の話のお陰で真っ暗な気持ちの中にも光が差し込んでいる。

講師や同学年の院生たちが気づいた時に私を見ててくれる、常には難しくとも多くの目があれば安心だ。
明後日復帰した時も容易に何か仕掛けてくるような機会は減るはず・・・
自分自身に言い聞かせるみたいに繰り返し考え、外に向かって行く兄達を見送る。
そしていつものように最後に出て行こうとする照さんが私を振り返り、少し戻って来ると言った。

「・・何かあったらLINEじゃなく電話かけて来い、すぐ行ってやる。遠慮しなくていいから」
「――・・・・はい!」
「良い返事、んじゃまたな」

私の不安を見透かしたみたいな言葉に言葉が喉に貼り付いたみたいになる。
でもその言葉が支えになって一呼吸置いてから頷けた。

すると満足そうに照さんが柔らかく笑い、私の頭に乗せた手でワシャワシャと髪を乱し
目を細めた笑みを残すと踵を返して外へと向かって行った。

うん、なんだろ・・ギャップがありすぎる。

外へと消えた長身を見送り終え、スンとした顔になり真面目に思い返した
私の事をかわいいとか声に出して言う照さんを初めて見たよ?
どういうのが可愛いのかは分からないけど、兄達に言われるとくすぐったい気持ちになる。

私からすれば皆の方も可愛いけどね、自然体だし飾ったとこもなくて親しみ易い。
一回だけ見ただけのレッスン風景、あの時も皆自然体で家に居る時と変わらなかった。
そんなレッスン風景も今見たばかりみたいに鮮明に思い出せる。

変に飾らない兄達だからこそ現場のスタッフさんや事務所の先輩の受けもいいんだろうな。
そのくせダンスや歌になるとスイッチが付いてるみたいにバチッと切り替えてしまう。
真剣な眼差しとしなやかに揃ったダンス、個々の個性や癖を直したりせずそのまま組み込んで
敢えて周りがその癖をカバーするように合わせて動いてるからより凄い。

そう説明された訳じゃないが、兄達を見ているうちに自然と浮かんだ。
それは兎も角朝ご飯を食べたら洗濯物とかを終わらせて、教科書に目を通しておこう。
特異な特技があるからって怠けたらダメだ。

先ずは舘さんが用意してくれた朝ご飯を食べようかな。
今日の朝ご飯は何やら力の付きそうなメニューだね?

とか思いながら用意する
まさか宮舘がゲンを担ぐために作ったとは思いもしなかっただろう。
一応成長期なにとって今朝の朝ご飯は食べ応えもあり、お腹も満たされた。

ピロン♪

そんな時、ふと鳴った受信音。
LINEとは違う受信音だ、少しだけ体が強張った。

無意識に警戒しながらiPhoneを開き、画面を見る。
思った通りLINEではなく、メールが届いていた。
のメールアドレスを知っているのは養父母と、執事長・・残りは滝沢秀明さん。

滝沢さんとは見学した日以降連絡は無い。
兄達がジャニーズとはいえ、その兄妹に連絡をしたりする事自体が稀だ。
だとすれば・・・・養父母か執事長のみとなる。
しかしその可能性も何となくは除外していた。

近々で起こった転落事故の事すら養父母達は耳にしていない様子だし
あちらからのコンタクトは此処に来て一度もない。

は養父が初日のうちに阿部と電話で話した事や、翌日に阿部や照に頼み事をした等は知らない。
まあ取り敢えず誰からメールが送られて来たのかくらいは見ておこうと思い
メールのアイコンをタップしてメールボックスを開いてみると目に飛び込んできた文字。

「・・・滝沢さんからだ」

受信箱の一番上に表示されたタイトルを無意識に声に出していた。
其処に表示されたのは¨ジャニーズ事務所所属 滝沢秀明¨という文字。

―拝啓、殿―

という書き出しで始まったメールの内容。
そこには明日兄達と、その他に同じジャニーズの4グループが同時に記者会見をする事が書かれていた。
なんでも、ジャニーズ事務所始まって以来の初の取り組み YouTubeチャンネルを開設するという発表らしい。

時代の波に乗り、今まで閉じた世界だったジャニーズの世界を外に発信する方向へ舵を切ったそうな。
YouTubeというのは最近も兄達の事を知る為に使った動画サイトだ。
先ずはある程度キャリアと経験も積んだ5グループが試験的に参加し、各曜日に数本、動画をUpして行く。
それがどんな内容になるのかは、各グループ次第でそれぞれの色を出して行くものになる。

言うなれば今後このYouTubeが自分達の名刺代わりとなるのだ。
先ずは興味を持って貰い、もっと知りたいと思って貰ったらYouTubeを見てね!と言い易くなる。
若い世代にも知って貰えるしジャニーズを知らない世代にも知って貰いやすくなる訳だ。

「凄いなあ」

益々兄達はキラキラと輝いて行くのは間違いない。
同時に遠くに感じてしまうのも否めなかった。

―明日行われる記者会見はYouTubeで生配信されます、良ければ是非見てくれると嬉しいな―

そんな文末でメールは終わり、放送の日時と滝沢の名が記されていた。
日時はまさかの明日だ、時間帯も丁度良いし大学院には明後日復帰だから見ようと思えば見れる。
よく分からない気持ちを感じたが、兄達の活躍は嬉しいし輝く姿を見れるのは純粋に嬉しい。

わざわざ知らせてくれた滝沢に感謝すべく
知らせてくれた事への礼と、是非とも見させて貰いますと返信しておいた。

芸能人ってやっぱ忙しいんだなあ・・・
稽古もしながらレッスンもこなして記者会見も控えてる。
その全ての日程に合わせて体調管理もして、色んな調整も間に合わせるとかもう凄すぎ。

疲れて帰って来る兄達にしてもらってばかりだな、私。
出来る事・・もっとやらなきゃダメだ。

そう感じたが先ず思いついたのは、宮舘に任せきりの食事の当番を手伝う事。
作り方はどうにでもなる、パラパラと本を見たりまたは調べたアプリを見ておけば心配ない。
手際云々は今までも料理はして来たから難しくはないだろう。
の特異な特技、一度見聞きした事は瞬間的に記憶し、忘れる事が無い『瞬間記憶能力』を持っている。

過去この事で人が離れ、友を失ったりもした。
何気なく友人が話した事を詳細に記憶し、後日その話を持ち出してあまりの正確さに気味悪がられたりと。
瞬間記憶で教科書丸暗記出来るから良いよなーと心無い事を言われもした。

確かに良いかもしれない、覚えなきゃならない事も一度見聞きすれば忘れられない。
その反面、事件の再現ドラマや残酷なニュースを見聞きすると同じように忘れる事が出来ず
周りが忘れて行ってもだけはその事を死ぬまで記憶し続けると言う事になる。
にとって、この特技で得した事などごく僅かでしかない。

そのごく僅かな出来事は些末すぎて分からなかったりする。
記憶がなくなる事は無いはずだが、嬉しい事を思い出すのは鈍かった。
いつも思い出すときは、たくさんある記憶の本棚から1つ1つのデータを取り出してそこに管理されてる情報を引き出す。

溢れるように脳裏に巡る時は抑えが利かない時のみ。
いつもはどれを思い出すかをある程度コントロールしている。

「そうだ、今夜は私が夜ご飯作ろう!」

パッと思いつくや持ったままだったiPhoneを取り出す。
迷う事なくグループLINEを開いて文字を打ち込む。
皆さんの苦手な食材ってなんですか、と。

我ながら直球・・しかも¨何か心配になったら遠慮なく連絡しろ¨に対してのLINEが苦手な食材。
多分兄達は力が抜けるかもなー、ツッコミとかしてそう。


――同時刻の移動車内。

ピロン♪×3

「あれ、からだ」(佐久間
「早速何かあったんかな」(翔太

一斉に鳴った3回分の受信音。
ゴソゴソと先にケータイを取り出した佐久間に続き
隣の席に座っていた翔太も次いで開いたLINE画面を見る。

対する阿部や宮舘、照は無言のままそれぞれのケータイを開く。
深澤はというと、受信音は聞いたが電話中の為通話を優先。
何かあったら連絡するよう言って出て来てたのもあり、本文を開いて目に入る文を予想してドキドキする5人。
しかし飛び込んできた文に芸人並みの機敏さでズッコケたのは佐久間だった。

「えーとなになに・・皆さんの苦手な・・・食材ってなんですかってオーーイ」(佐久間
「苦手なってつまり嫌いな食べ物って事だよな」(翔太
「ぶっ!おい佐久間の友達俺らのグループLINE何で知ってんだよっ」(阿部
「へ?いや俺の友達じゃなくて――」(佐久間
「つーか佐久間と翔太は受信音鳴らねぇようにしとけよ」(岩本
「そうだよ2人とも、後鳴ったのはふっかもだからミュートにしとかないとだね」(舘さま
「はーい」(ふっか

佐久間のノリ突っ込みに更に突っ込んだのは阿部。
前も注意したがまたも佐久間は忘れていたようだな・・

不自然にならないように誤魔化してみても佐久間の顔はまだ察していない。
一緒になって声にした時点で翔太も分かってないのが丸分かりだ。

阿部の言葉に訂正をしようとした佐久間。
その言葉に被せるように一番後ろの座席から鋭い照の声が飛んできた。
強い口調だが無事話をすり替える事に成功。

照の言葉に宮舘も合わせた事が功を奏したようだ。
一番後ろの座席に宮舘も座っていたので合わせやすかったのかもしれないが助かった。
隣の宮舘と視線を合わせ、膝元に置いた手で親指を立てる。
気づいた宮舘も同じように親指を立て、4本の指の部分を照と重ね合わせた。

「ナイス舘さん」
「2人にはもう一度言っておく必要がありそうだね」
「だなあ」

慌ててミュート設定にしているさくなべを眺めつつ話す宮舘の表情は少し厳しい。
まあ別に知れて困る事ではないが、は一般人なのもあって公にし過ぎる事態は避けたいのだ。

ただでさえ自分達の事がなくても話題の人なのである。
しかも今は変なファンに目を付けられているし
そんな状況に上乗せするみたいに末弟だと知れてみろ?えらい事になる。

ジャニーズのグループの末弟もシェアハウスに住んでいた、しかも話題の天才と!
みたいな記事を書かれでもしたら益々あの女子院生を刺激してしまう。
だからこそ自分達は彼の事を口にしないよう気をつけねばならないのだ。

「特に佐久間は前科があるからね、少しきつく言わないとかもしれない」
「・・・ああー、言えてる下りたら俺が言っとくわ」

窓の外を見る為に顔を左へ向ける宮舘。
滑らせた視線の端で素早く運転する事務所の人間を確認してみる。
幸い此方を訝しむ様子もなく運転に集中していた。