続、話し合い。
真剣に落ち着いたトーンで気持ちを話す阿部を
聞き手の5人も同じくらい真剣に耳を傾けていた。
「勢いで口にしたとは言え、Snow Man・・・抜けてやるとか、ホント最低な事言ったと思う。
帰ってから振り返った時気づいたんだ、あの言葉を言った瞬間俺今まで応援してくれたファンの子達を裏切ったんだなって
照に『俺達の職業って何だ?』って言われた時言い返せなかったけど今なら分かる。
常に多くの事を考える必要があり、自分が大事にしたい事や大事なものだけに心を砕けない厳しさも。」
時折記憶を振り返るように目を瞑って言葉を選びながら阿部は話す。
ジャニーズじゃなくなった自分の事は何回も想像した。
今回揉めてケンカした事で一層イメージしたりした。
それでもやっぱ冷静になってみたら気づいたんだ。
ジャニーズを辞めた自分自身を想像出来ない事に・・
あんな偉そうな事言っておきながらバカだと思う。
何一つ捨てられない、捨てる覚悟すら出来ない奴がくんを守りたいとか烏滸がましいってね。
「何度も抜けるべきか考えた、けど・・やっぱり捨てらんねぇから・・・っ」
色々考えた結果、思った以上に俺はSnow Manが好きで
騒がしいけど居心地のいいこの空間を捨てれる覚悟すらないと気づいた。
そう気づいたらプライドもかなぐり捨ててバカみたいに言葉にしてた。
でも同時に話を聞いてる皆の顔を見るのは怖かった。
話もまとまってないし聞き難い事この上ないだろう。
それでもこれだけは言いたくて膝に乗せた手の甲を見ながら言った。
「だから俺・・Snow Manの阿部亮平で居続けたい――」
この言葉を口にした途端、感情がぶわっと高まり
ボロボロと涙が一気に毀れ落ちた。
突然大粒の涙を流した阿部に一斉に気づいた照達は吃驚して目を見開く。
驚きはしたが話し合いの場だからと気持ちを落ち着かせ
照を筆頭にそれぞれが阿部の話に対し、感じた事を口にし始めた。
「多分、阿部が一番に近い目線で接せられるから・・気持ちが先走っちゃったんだろな」(岩本
「それはあるね、俺らもそれに甘えて阿部ちゃんに任せきりだったと思う」(ふっか
「うん・・阿部は凄いよ、俺らが気づけない事に気づいてくん助けようとしてたじゃん?」(翔太
「でもちょっと抱えすぎたね、だから多分今回溢れちゃったんじゃないかな」(舘さま
「ん、俺も殴っちまった後怖くなった・・・このまま阿部がSnow Man抜けちまったらどうしようって」(岩本
「照・・・・」(阿部
「お前が色々抱え込んでるの知ってたのに殴ったりしてホントごめん・・」(岩本
話して行くうちに気づけば全員の目が潤んでいた。
「照と阿部ちゃんは謝るのナシな、Snow Manは誰が欠けてもSnow Manじゃないんだぞ」(佐久間
続けて佐久間が珍しく良い事を口にした。
でもまあこれは常に全員の意識の中にある言葉だったりする。
特に何回かの辛い別れや体験をして来た深澤にとって最も大事な決意の言葉。
この意識さえあれば、自分達は常に同じ方へ歩き続けられる。
思わず阿部はこの場に集まっているメンバーの顔をゆっくり見渡した。
少し涙ぐんでる照と深澤に翔太。
佐久間は真剣な眼差しで阿部を見つめ返し
宮舘は変わらず笑みを浮かべた顔を此方に向けている。
「良いのか・・?皆と同じ夢、目指す事・・・赦してくれる?」
「そんなの当たり前だろ!お帰り、阿部ちゃん!」(佐久間
「赦す赦さないの問題じゃないよそもそも俺ら怒ってないもの」(舘さま
「怒ってたのは照だけだしな、でも俺は嬉しかったよ照が怒ってくれて」(ふっか
不安げに顔を上げた阿部の横へ駆け寄って座り抱き締める佐久間。
雑に抱き締められてる阿部に宮舘も穏やかな目で何てことないよ、と笑っている。
同意しながら阿部を正面に見る深澤も口を開く。
が、それは少し手厳しい意見だった。
「手を出したのは照が先だけど、阿部ちゃんが感情的に口走った言葉で照が傷ついたのは確かだからね」
再び引き締まる空気の中、深澤の言葉で真剣な顔に戻る阿部。
深澤の言う事は当たっている、どんな理由があれ照を傷つけ怒らせたのは自分の言葉のせい。
例え周りが阿部を赦しても、深澤が反対する可能性もゼロとは言い切れない。
勢いで口走ったのは分かるよ?でもさ、冗談でも言って欲しくなかったかな
そう目の前に座る深澤は言葉を続けた。
針で刺されるみたいなチクチクとした痛みが心に走る。
阿部に抱き着いたまま佐久間も重くなる空気を感じ押し黙った。
自覚してるからこそ改めて指摘されるのが堪える。
こればかりは謝るしか方法が思い浮かばなかった。
一度口から出た言葉は、どんな術を用いても取り消せないし無かった事には出来ない。
この変な流れを止めるべきかと感じたのは照で、深澤に対しもうそんな阿部を追い詰めるなと言おうとした。
もう阿部は皆の前で何回も謝ったし自分の発言に対して反省もしてた、そこを更に責めるのはよろしくない。
翔太や佐久間も深澤に対し、もうその辺で良くないか?と口にしかけた。
対する阿部は深澤から責められるのを覚悟して聞いていたのだが意外な言葉が深澤から出たのである。
「だから俺は照だけを悪者には出来ないし、俺が照だったら多分同じ事してたと思うよ
でも阿部ちゃんを責めるのも筋違いだと思うのよ俺は。
まあ腹は立ったかもしれないけど殴るのは良くなかったよね、今更聞くけど骨とか折れてない??」
饒舌に話していた流れの最後にナチュラルな質問が挟み込まれ
そこにぶっ込むの!?てな目線をメンバーが深澤へ注ぎまくる。
また揉めてしまうのでは?と思うような会話の流れだっただけに
体を固くして聞いていた阿部も、力が抜けて膝の上に乗せていた手がずり落ちた。
「うえ?あ、うん。打撲はしたけど・・折れてはいないよ」
気後れしながらも問いに答えた阿部。
これはちゃんと病院で診て貰ったから嘘ではない。
ただ腫れが引くまで数日かかるとも言われた。
「そっかよかった〜」(ふっか
「でもその肩甲骨周りが腫れてるからダンスと歌舞伎の稽古は数日控えるようにって・・・・」
吃驚しながらも阿部は病院にかかり、受けた診断結果を皆に打ち明けた瞬間・・
「照の馬鹿力!!」(佐久間
「ご、ごめん阿部!手伝える事は手伝うし、遅れた分は俺も協力する!ホントごめん・・!」(岩本
「わわわ照そんな謝らなくていいから寧ろ俺の方もごめん!」(阿部
「2人とも謝るのはナシって俺言ったじゃんーー」(佐久間
「あー騒がしいーー久々に真面目な話したら腹減った!」(翔太
「ふふ、それじゃあ朝ご飯にしようか」(舘さま
般若の如く佐久間が叫び、照をギロリと睨む。
勿論愛ある叫びと愛ある弄りではあったが本当にその辺は悪いと自覚してた為
ソファーから立ち上がった照は阿部の方を向くと全力で頭を下げた。
あの照から真摯に謝られると物凄く申し訳ない気持ちに駆られ
腰に引っ付いてる佐久間を剥がし、同じく立ち上がると阿部も照へ頭を下げた。
何だこの流れ(笑)そんな感想を抱く渡辺翔太。
でもまあこれはこれで喧嘩両成敗なのでは?と宮舘は感じ取る。
険悪なムードに引き戻したけど、結果互いに素直に謝れる良い雰囲気に持ち込んだのではないかな?
そう思い視線を深澤へ向ければその考えが正しかったのだと思えるくらい嬉しそうな目をした深澤がいた。
これならもう大丈夫だね、と席を立ちキッチンに用意した朝食のラップを外す。
振り仰いだ時計は8時35分を指していた。
まあまだ今から食べ始めても余裕で間に合いそうだ。
「ほら皆、朝ご飯にするからまだ支度してないやつはしておいで」(舘さま
「俺まだ着替えてなかったから着替えて来る!!」(佐久間
声をキッチンから掛けると、ハッと時計を見た佐久間が一目散に個室へ駆け出す。
思えば佐久間だけはまだ部屋着のジャージだったなと記憶を振り返る5人。
何はともあれ、1人も欠けることなく明日の記者会見に臨めそうだ。
ホントに良かった・・
しみじみと1人感じているのは照。
勢いと感情で手を上げてしまった自分の思慮のなさに呆れ
昨日はずっと後悔と不安に苛まれた。
でもと他愛ない話をする事で気持ちが落ち着き、冷静になれた。
この話し合いで、阿部の方も昨日とは違い冷静に話をしてくれたと思う。
それぞれが冷静に反省し、次に繋げる事が出来たからこそ・・・また6人に戻れた。
視線はソファーから立ち上がり、ガラス戸へ歩き出した阿部を捉える。
多分顔を洗いに行くのかなと照は読んだ。
だから追うように自然と腰を浮かせ、1人掛けに座ったままの深澤の肩を叩き
小声で¨ふっかサンキューな¨と口だけ動かし、リビングを出た。
そんな照と阿部を見送る深澤、世話のかかる奴らだなホントと小さく呟いて笑んだ。
「――阿部」
「え?ああ、どうしたの照」
左側の階段を上りかけた所の阿部を呼び止めた照。
右足を1段乗せた体勢で声を掛けた照を阿部は振り返った。
真っすぐ向けられる阿部の目線からは、昨日のような苛立ちを感じない。
色々と感情を吐き出せた事でスッキリした顔つきにも見えた。
「背中とか・・顔とか、痛かったよな」
「もう気にしてないよ」
「けど打撲――」
「まあ痛みは凄かったよ?喀血したかもって思ったくらい」
改めて謝りたくて口にしたら、意外とアッサリした顔で阿部は笑った。
でもやっぱり殴った時の阿部の吹っ飛び方からして、心配は凄くしてた。
俺みたいに皆が鍛えてる訳じゃないしな(かっけつって何)
「ごめんな・・」
「もういいんだよ、それに殴った照も手が痛かったと思うしさ」
それに、と続ける阿部。
「本気でぶつかってくれた事に感謝してるんだよね俺」
「・・・感謝?」
「うん、照に殴られた事で俺は冷静になれたし間違いにも気づけたから」
ありがとな、照。
そう言って笑う阿部は照にそれ以上謝らせようとしなかった。
阿部がそう言うなら、と照も謝る事はやめた。
殴った手は痛かったが、手よりも心の方が痛んだと思う。
もうそんな事をしたくはないし、メンバーとそんな話し合いももうしたくない。
「阿部ありがとな」
「お礼を言うのは俺もだからお互い様だよ」
「それと、お帰り」
「・・・え?」
「Snow Manの阿部亮平を選んでくれてありがとな」
素直に感謝を伝えたら、阿部の目が大きく見開かれた。
意外だったんかな、俺がこんなこと言うの(笑)
思った事をそのまま伝えただけじゃん?
まあちょっと恥ずかしいけどさ。
阿部のリアクションが面白かったので、目をパチクリさせる阿部の髪をクシャクシャに撫でる。
すると反射的に何すんだよーと照の手を払おうとした阿部。
その阿部に、もう一回だけ手伝える事あれば遠慮なく言えよ?と念を押し照は踵を返した。
背を向けた照の姿を眺め、ふっと微笑むと阿部も2階へと向かい始めた。
着替えは済んでるけど荷物を残して来たままだったからね。
でもホント・・この結果を迎えられてよかった。
昨日、彼女に聞いてもらったお陰かな・・?
そのお陰で自分自身を俯瞰で見る事が出来たんだ。
昨日の自分の行動全てを振り返り、1つ1つ思い返せたから照やふっかの目線からも考える事が出来たと思う。
逆に言えばその機会を昨日ふいにしてたら、今の結果を迎えられてなかったかもね・・
には改めてお礼を言わなきゃかな、と部屋に残した荷物を手に笑みが浮かぶ。
まあそうする前に・・・あの女子院生の事をどうするのか考えなきゃだ。
俺達はから何アクションを起こすまで、見守りに徹するしかない。
だからなるべく早く頼って欲しいのが本音だった。