とまあそんな訳で、波乱の18日は終わり
運命の話し合いが行われる19日を迎えるのである。
朝、7時半――
先ず起きて来たのはこの家の食事全般を賄う宮舘。
貴族、国王と慕われる宮舘を料理係に出来るのはSnow Manの5人だけだろう。
昨日は色々ありすぎた・・・今日は阿部との話し合い。
この話し合い次第では、Snow Manが6人から5人になる。
きっと体力を使う話し合いになるだろう・・
今日は力の付く食事を用意しようかな?
若干ズレてる舘さまは、洗面所で顔を洗い歯を磨き
姿勢美しく2階から下のキッチンへ向かう。
その途中にある阿部の個室をチラ見、何となく懐かしい気持ちに駆られた。
久しぶりに阿部の怒る顔を見たからね・・・
今から7〜8年前に、学業に専念するから芸能活動を控える
って俺達に話に来た阿部と反対する意見をぶつけ合った、あの時以来だ。
真剣に休止する理由をぶつけて来たあの頃の阿部。
昨日も真剣に照と言葉をぶつけ合ってた。
ただ以前と違うなって思ったのは、阿部の心の不安定さ。
彼なりに考えた末の意見をぶつけたつもりだとは思う
が、阿部自身迷いながら話してるように感じられた。
そこが前と違う部分。
前は確証と確固たる自信、意思の強さを感じる話し方だった。
それもあったから俺達は最終的に折れたのだけど・・
まああの頃の俺達は若かったし、俺は納得出来なくてあんな態度をとったりしたから子供だったのかな。
などと考えつつ(この間数分)歩き出して今度こそキッチンへ。
今日はコンサートの最終確認だけ行う、それを夕方までに終わらせ
その後稽古に向かうはずだったが、事務所からの特例で滝沢に話が行き少し遅れる事を許可されている。
グループの存続に関わる大事な話し合いだ。
それを考慮し事務所側も重きを置いてくれたんだろう。
宮舘に続き、個室から出て来たのは深澤。
グループのまとめ役として何としてでもこの話し合いを良い結果で終わらせたい。
今回を逃せば2度と話し合えないまま、また1人仲間を失うのだ。
「・・・あれ、珍しく早いね」
気を引き締めつつリビングに入れば左から掛けられる声。
パッと其方を見れば、安定の舘さまがキッチンに立っている。
「あー、えっとおはよう舘」
ちょっとだけ畏まる深澤、落ち着かなくて早く起きちゃったとか恥ずかしくて言えない。
そんな内心を知ってか知らずか、気持ちは分かるよとだけ宮舘が囁く。
やっぱり付き合いの長さから見透かされてた事に改めて深澤は気恥ずかしくなった。
取り敢えず冷蔵庫から飲み物を取り出し、カップに注いだそれを手にリビングのソファーに座る。
果たして阿部や他のメンバーは現れるのか・・明日に迫った記者会見をどう迎えるかは今日次第・・・
どんな話し合いになるのか早くもソワソワして落ち着かない。
事務所の人らには話し合いの結果を伝える手筈になっている。
落ち着かない様子の深澤を時折キッチンから気にしつつ、宮舘は朝食作りに専念した。
――コンコン
時刻が7時45分くらいを指した時、個室のドアがノックされた。
ノックされた部屋の主、はこの時既に目が覚めており音に気づく。
「、今良い?」
ドア越しに聞こえたのは隣の部屋の主、岩本照の声だ。
昨夜話し込んでしまった相手の声に、パッと目を開くと掛布団を捲りながら右向きで起き上がる。
ドアを開けられても良いように急いで男物の上着をパジャマの上につっ被った。
それから大丈夫ですよ、とノックに応えるとノブが下がりドアが押し開かれ
廊下側から既に支度の整った照が室内へと顔を覗かせ、入って来た。
「ごめんな、まだ寝てただろ?」
「いいえ、もう目は覚めてましたし大丈夫です」
それよりどうしたんです?
と室内に入って来た照へ尋ねる。
ベッドの傍まで歩いて来た照はの前に膝を折ると
一瞬だけ視線を外し、すぐ戻してから口を開いた。
「これから9時20分近くまで、あいつ等と話し込む事になる」
「・・・はい」
「長いか短いかどっちになるか分かんないけど何が聞こえても俺らの話が済むまで此処に居てくれ」
「・・大丈夫ですよね?」
「勿論」
昨日阿部本人からケンカしてしまった話を聞いていたから
照が濁して説明した話し込む、が何を意味するのかは察しがついた。
しかも¨何が聞こえても¨って不穏でしかないワードチョイス。
本当は心配だから立ち会いたいけど・・・
間違いなく私が居ても何ら役には立たないのは明白。
だから素直に頷くしかなかった、末っ子にはなれたけどそれ以外では本当役不足だ。
「分かりました・・」
「・・ありがとな、」
心配でたまらないという顔で承諾したに苦笑を浮かべ
ケガに響かないよう優しく頭を撫で、踵を返す。
俺ら兄弟が声を荒げて言い争うとかいう刺激の強すぎる光景からはなるべく遠ざけてやりたかった。
こうでもしないとは間違いなく立ち会うとか言い出す。
不謹慎かもしれないがケガを負ってるお陰で無茶を防げた気がした。
頼りないの視線に見送られ、照は個室から出てリビングへと向かった。
―大丈夫ですよね?―
と聞いて来たの目、カンの良いやつだなと照は感じた。
瞬時に何が聞こえても、っていう自分の言い方からある程度察し
ああいう返しをしたんだろう・・
でも決めたから、俺。
ちゃんと冷静に阿部と話し合うって。
あいつ等やが悲しむような話し合いの結果には絶対しねぇから。
強い意思を持ち、洗面所で顔を洗うと
軽く歯を磨いて照もリビングにゆっくり入って行った。
+++
リビングにを除く全員が集合したのは8時。
宮舘は話し合いが終わってから皆で食べれるようにと完成した朝食にサランラップを被せた。
8畳あるリビングに集結した6人の兄弟兼メンバーの配置はこうだ。
照 翔
深 □□ 阿部
佐 宮
1人掛けのソファーは長兄の深澤のみ。
阿部が座るのは長掛けで、照や翔太も同じソファーの端に居る。
対面する佐久間と宮舘も長いソファーに腰掛けて話の始まりを待っていた。
先ず何についてハッキリさせ、質問したり議論すべきなのかを整理しなくてはならない。
「それじゃあ早速始めよう、議題はメモに纏めたから挙げて行く」(舘さま
「うんそうだね、ありがとう舘さん」(ふっか
「議題毎に仕切らせて貰うよ、話し終えたかなって判断した時点でその議題は終わりになるからね」(舘さま
「・・・それでいいよ」(阿部
今回は珍しく宮舘の仕切りで話し合いはスタート。
何について話し合うのか、いつの間にやら宮舘は纏めておいたらしい。
流石涼太だな、と相向かいで翔太が感心している。
昨日はいつの間にか話の論点がズレてしまったように感じ
宮舘は何を話し合うべきなのかについて、ある程度目安を付けた。
1.くんの件、注意して見ててもらうのはどのくらいの期間にするのか等
2.もう少しくんに対し気にかけるべきでは?について
3.阿部は今後どうしたいのか
まあ今の所はこのくらいかな、と宮舘はメモを読み上げた。
後はその他話し合い中に気になった事を挙げればいいよね、と纏める宮舘。
「1つ目に関しては・・阿部がどう考えてるのかを先ず聞きたいかな」
阿部が一番その点に関してくんと接点も多いからね。
そう付け足し、率先して考えを口にした宮舘。
この宮舘の意見に他の兄弟らも、確かになと相槌を入れる。
言葉の終わりは右側の阿部に視線を投げて促した。
決して責めるような目ではなく、話をし易いよう窺うように聞く辺りロイヤル。
この話し合いを行うきっかけになってしまった阿部が意見を言い易いようにし
率先して口を開く宮舘、一片の曇りもない接し方だ。
問われた阿部は1つ瞬きテーブルに向けていた視線を上げる、それから口を開いた。
「出来れば、だけど・・くんを狙った院生の主犯が炙り出されるまでかな」
「そうなると協力してくれると申し出た人達に任せきりになる感じ・・?」
あくまでも阿部の考える最善。
それにこればかりは自分達には直接大学院へ出向いて何かするとかは難しい。
期間を定めるにしても、どのみち主犯の女子院生が手を回した的な証拠も要るだろうし
完全に女子院生が講師陣に見つかり、やめさせなければ解決した事にはならない。
まあその為の協力者集めなんだけどさ、うん。
はいよいよ明後日から大学院へ復帰する事になっている。
「・・・心苦しいけど、目星の付いたあの女子院生が実際に実行または指示してる所を捉えない限り任せざるを得ないよ」
それまでにへある程度説明しなくてはならない、あの件の事で講師や院生の有志が
の行く先々で君の姿を見たらなるべく周りに目を配ってくれるように話をしておいたよと。
この手回しをがどう思うか分からないが・・多分感謝はしてくれない気がする。
「まあな・・この辺はやっぱ本人にも説明すべきだろな」(岩本
「うん・・流石に勝手に決めすぎたと思う」(阿部
膝の上で手を組むようにして話す阿部に忌憚ない意見を照が口にする。
4人の兄弟兼メンバーは、昨日の言い争いを思い出し一瞬ヒヤッとしたが
どちらも声を荒げる事なく普通に会話が成されている。
阿部自身もに説明はしないとだと思ってたのもあり
照の言葉に対して素直に同意出来た。
他の兄弟兼メンバー達も特に反論もなく同意した事で議題は次に移る。
2.もう少しくんに対して気に掛けるべきでは?
について、これもまた阿部からの意見を言い
それに対するメンバーの意見を受け付けるといった流れ。
うーん・・この話はくんがさんだっていう事実を
皆が知ってる前提じゃないと伝わり難い気がする・・・
話し始める前の阿部の心境↑
取り敢えずそこを省いて・・・
要点だけを伝えておくのが良いのかな。
「難しい事を言ってるのは重々承知してるんだ自分でも」
それを踏まえた上で言わせて貰う、と阿部は口火を切る。
昨日照に言われた自分達の仕事って何だ?て言われても仕方ない願いだから。
「気づいた時でいい、くんが独りで悩んだりしてないか抱え込んだりしてないか気に掛けて欲しい」
ただ彼女は先ずそれを相談したりしない節がある。
こっちに言って来ればそれなりに聞く態勢は出来てるのだが
頼ろうとしないのを無理に強いるのもどうかと思う自分も居て、口にしてから阿部は俯いてしまった。
聞き手の5人にも苦悩する様子は分かり、ふうむと思案した。
要するに議題のまんまなんだよね、と内心の舘さま。
本人がアクションして来ない事を此方が一方的に気遣うのも押し付けがましい気もするし?
かと言って無関心とかではなく、逆に気に掛けまくってる6人な訳で
これに限っては無理に何かしようとしなくてもいいのでは?と思い至る。
「心配なのは分かるけど、あんまり部外者の俺らが口出しするのはの印象を悪くしたりしないか?」(ふっか
「それにあまり俺らが手を貸し過ぎても良くないと思う」(翔太
「くん自身には状況を変えられる強さがある、俺は彼の強さを信じたい。」(舘さま
「から俺らに助けて欲しいって言われるまで見守ってみないか?言って来たらもう全力で守ろうよ」(佐久間
「何でもかんでも助けてたら、自身が自分で乗り越えられる機会を奪っちまう気がする。」(岩本
「寧ろくんの場合、守られてばかりな自分自身に腹立てそうじゃね?」(翔太
「それな」(全員
最初に発言したのは長兄の深澤、尤もな意見であり
後に続いて翔太も思った事をそのまま口にし、宮舘も同意見だと頷く。
佐久間も意外と俯瞰で見守ろうと発言した。
この意見に賛同するように発言する照。
確かに一理あるし、自分達はどちらかというと本人がやりたい事やりたい意思を尊重したいタイプだ。
一晩頭を冷やした阿部も皆の意見に不思議と抵抗がなく
ちゃんとの性質を理解した意見ばかりな事に気づき、良い意味で言葉を失くす。
最後言った翔太の発言で見事にユニゾンした瞬間、つい全員で噴き出していた。
考えが見事に一致していたのが如実に表れていて険悪だった雰囲気が一気に和らいで行く。
この議題に対しての意見としては、自身が独りじゃ無理だと感じ
自分達に協力を仰いで来るまでは様子に注意して見守る、で意見が一致。
続いては最後の議題、阿部は今後どうしたいのかについて。
正直この意見交換が一番気になっている5人。
今の所揉めたり声を荒げたりする事なく話し合いは進んで来た。
「いよいよ最後の議題だけど、昨日照に言った阿部の発言の真意と今後どうするのか・・聞かせてくれる?」
議長を務める貴族宮舘の仕切りで最後の話し合いが開始。
静かなリビングで5人がそれぞれ見守る中、1つ深呼吸し、阿部は話し始めた。
「先ず最初に、照やふっかそれから翔太に舘に佐久間に謝らせて欲しい。
全力で照に殴られた時は悔しくて腹が立った、でも同時にやるせなくなった。
家に帰ってから少し考えたんだ、照が何であんな怒ったのかとかを」
話し始めた阿部の表情は穏やかで
ああ、ちゃんとコイツに俺の気持ち届いたんだなと照は感じ取れた。