凄い衝撃を受けてから1時間後の20時20分。
滝沢は1人思案に耽っていた。
それはつい1時間前まで対面していた少年についての思案。

まだ目の前の鏡の前では、その少年の兄にあたる6人がレッスン中。
彼らSnow Manの振り付けはほぼリーダーの岩本照が担当している。

自分達の武器アクロバットを活かした振り付けでそれなりに細かい振りもある中
彼らの末っ子、は幾つかある彼らSnow Manの曲の中から中々に細かい振り付けの2曲を挙げ
その細かな動きを完全に再現していたのだ。
振り覚えの遅い阿部が苦労する部分も、まるで映像を見てるかのように正確に表現。

あれは一種の才能と言わざるを得ないだろう・・・
このまま眠らせておくのは勿体ない、そう強く滝沢は感じていた。


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滝沢の好意で兄達のレッスンを見学してからのに、少し変化が生まれた。
養父母の家の部屋から何とかデスクトップパソコンを送って貰い
インターネットに繋げてから、何かと調べ物をするようになった。

試したのはジャニーズ事務所についての検索。
そしたらまあ出るわ出るわ・・・所属タレントの数に吃驚もした。
未成年から成人を過ぎ、40代の人も所属している幅広さ。

色んなグループの名前が掲載されていて、その中に滝沢秀明という名前を見つけた。
マルチに活躍する滝沢は、ユニットを組んでおり、今井翼さんという方が居たのだがメニエール病の為グループ活動は休止中。

その分ソロで活躍し、2006年くらいから始めた¨滝沢歌舞伎¨は最早代名詞の1つだとか。
2006年時¨滝沢演舞城¨という名前からスタートし、2010年に¨滝沢歌舞伎¨へと変更。
更に調べてみると名前を変えてから今年で8年目にあたり、今回のテーマとか出演者も載っていた。
芸能人に疎いにはその共演者の豪華さとかは分からなかったが、8年も続けている事に感嘆する。

全く知らない事もあり、載っている出演者達を1つずつ見てみる。
色んなグループが名を連ね、今もマルチに活躍しているグループが殆どだ。
眺めていく中、2010年から今年まで常連かなと思うくらい名前が載っているグループに気づく。

「Snow Man・・2011年まではmisSnowManて記載されてたけど同じグループなのかな」

気になったのでWikipediaのリンクから飛んでみた。
グループの詳細とメンバーの名前が表示され、ドキリとした。

岩本照、深澤辰哉、佐久間大介、渡辺翔太、宮舘涼太、阿部亮平
この6人が現在¨Snow Man¨として活動している。
そこで初めては兄達のグループ名を知った。

元々は8人グループだった事も、2011年を最後に2人が脱退しmisSnowManも解体された事・・
その1年後に滝沢歌舞伎のステージ上で滝沢サプライズでグループ名が発表された。
ジャニーズの世界ではこういう事象は珍しくないそうだ。

当時の兄達の心情は自分なんかが理解出来るものではないと思う。
悲しかったりしたのかな・・・悔しさもあったのかも?

色々と欠落している私は、それらを想像してみる事しか出来ない。
仲間とか友達なんて今まで出来た事すらなかったから、さ。

それからはもっと知るべきだと感じ、Googleとかでもサーチをかけてみた。
Snow Manで調べると、一番上に表示されたのは¨滝沢歌舞伎¨の記事と
彼らの曲名が書かれた動画とかのサイト。

試しに動画サイトのアドレスをクリック。
繋がったサイトの名前はYouTubeというサイト名だ。
TOPページには色々な動画があげられており、どんなサイトかというと
一般ユーザーが独自に動画を撮ってweb上に載せたものを色々な人が見れるというものらしい。

サーチから飛び、YouTubeで再生されたのは『VI Guys Snow Man』だ。
レッスン場でも踊っていたあの曲、レッスン着とは全く違う服に身を包み
たくさんのスポットライトと歓声を浴びて、楽しそうにでもカッコよくパフォーマンスをする兄達。

こうして見るとやっぱり芸能人なんだなー・・と実感させられた。
向けられるカメラに向かって微笑んだり見つめたりと、家で見せる顔とは全く違う。
見てるだけでワクワクするし、カッコイイ兄達に見惚れた。

動画を見ながら真似して踊ってみるだけでも楽しい。
何より兄達と一緒にパフォーマンスしてるような疑似体験も出来た。

この世界に飛び込んだら、1人で留守番しなくて済むし
兄達と頑張ったら私もキラキラ輝けるんじゃないか?と想像。
でもまあ男装しただけの女の子だから、と割り切る理由もあった。

その世界に憧れてしまう自分の心をセーブする唯一の理由だ。
これが崩れたらどうしよう?などと思いつつ、その日は家での家事をする事に集中する。
兄達が帰宅する前に出来る事を済ませ、借りた佐久間のスニーカーに消臭スプレーを吹きかけた。

時刻は21時になる、時間的にガッツリ夕飯というのは避けたいなと思い
送って貰う途中に寄って貰ったコンビニで買ったおにぎりとコンソメの素を用意。
冷蔵庫の野菜室から白菜と人参に大根にじゃが芋を出し、冷蔵室からベーコンを出す。
出した野菜はまな板の上で食べやすいサイズにカット。

深底の鍋に水を溜め、IHのスイッチを入れた。
お湯が沸騰するまでリビングで待機、もし早く帰れた場合、兄達にも振舞えるようにポトフを準備。
リビングで待機しながら手にしたのはこれもコンビニで買った雑誌。

単なる週刊誌ではあるが、その中に滝沢歌舞伎の記事が掲載されていたので買った。
今年のテーマは何なのかから始まり、過去の演目も載っている。
僅かだが稽古の風景や、出演者達の写真も取り上げられていた。


その後おにぎりとポトフで先に夕飯を済ませた
兄達が帰宅したのは23時手前だった。

時間が時間なので静かに帰宅し、玄関を開けた6人。
寝てるかなと想定したが、リビングの電機はついたままだしテレビの音も聞こえる。
もしやまだ起きてるのだろうか?と互いに顔を見合わせる。

「って寝てるじゃん」

先頭に立ってリビングを覗いた照が思わず口にした。
室内もテレビも付いているが、肝心のはソファーに横になってスヤスヤ。

「あーホントだ、しかも俺この光景見た事ある」(阿部
「俺もある(笑)デジャヴかな?」(翔太
「そうなの?」(ふっか
「・・あれ、これポトフだ」(舘さま

真っ先に見た事があると口にしたのは阿部と翔太の2人。
今月の始め、歓迎会の夜にもは今と同じソファーで眠ってしまった。
あの時は照が抱えて部屋に連れてったのも記憶に新しい。

言いながら寝ているの周りに集まる4人。
そんな中室内に香る匂いに導かれた宮舘は、キッチンのコンロに置かれた鍋に気づく。
中を確認してそれがポトフだと言い当てた。

「えーーマジで!もしかしての手作り??」(佐久間

最後に玄関を閉めてリビングに入って来た佐久間が嬉々として声を張る。
その瞬間一斉に5人から睨まれた。

「佐久間うっさい」(岩本
が起きちゃうだろ、てか部屋に運ばないとまた風邪引いちゃうな」(ふっか
「それは言えてるね」(翔太
「誰が運ぶ?この前は照がくん運んだけど」(阿部
「俺運ぶーー」(佐久間
「佐久間は難しいんじゃないかな、身長も差が無いし・・・」(舘さま

5匹の蛇に睨まれた蛙佐久間。
シュンと静かになり、ポトフに興味津々。
そんな中ポツリと冷静な言葉をぶっこんだ深澤辰哉。

当然だが誰かが運んでやらないと風邪を引くのは明白。
誰一人としてその場で起こす、という選択肢を導き出さない。

('ω')

何故か5人が視線で互いを牽制し合うように見る。
これは誰かが運ぶかの勝負が勃発か?
傍観に徹した宮舘が口にした言葉で佐久間が脱落。

適任なのはまあ・・翔太と深澤、タッパのある阿部と照と言った所か。
何故そこまで全力になるのか・・分からなくもないが混ざらない宮舘。
宮舘と脱落者佐久間が見つめる中、残った4人による全力ジャンケン大会が開催された。

「最初はグー!ジャンケン、ぽい!!」(岩本

を起こさないようリビングの外でジャンケン。
パーを出した照・阿部・深澤、チョキが翔太1人。

意外にもあっさり勝負がついた。
ちぇっと残念そうな顔をしたのが深澤と阿部。
照は少しだけ翔太で大丈夫かどうかを心配した。

自分以外のメンバーは基本線が細い。
でもまあ皆それなりに筋肉はついてるだろう。

「んじゃ翔太、おんぶなら出来そう?」(岩本
「あーそれなら行けるかも」(翔太
「落とさないように気を付けろよ翔太」(ふっか
「心配だから照、ついてってやりなよ」(阿部
「それがいいね」(舘さま
「万一階段落ちても照なら2人ともキャッチ出来そう(笑)」(佐久間)

リビングに戻り、寝ているの前に翔太を屈ませながら照が問う。
照のように横抱きは難しいが、おんぶして行くなら出来るかもと翔太は口にした。
いや、自信がないなら名乗り出るなって(苦笑)

半笑いの内心突っ込みを心の中でやりつつ、照に続いて深澤もフラグ発言をかました。
いやそれシャレにならんからと思わず深澤の肩を叩いて照は突っ込んだ。

そんな様子を見ていた阿部が照を指名してついて行くよう提案。
前回の時の阿部みたいに先に行ってドアを開ける役回りをしたら?と言っている。
阿部の発言にキッチンから宮舘が同意し、宮舘の横に立つ佐久間も実に楽しげ。

まあ別に翔太だけじゃ心配だったし良いけどさ。

てな訳で、を2階へ連れて行くのは翔太と照に決定。
残りの面々は折角のポトフだから一杯ずつ飲むか!と沸いている。

横向きで眠るの近くに照が膝を折り、ゆっくりと体とソファーの隙間に手を入れ
接地面から少しばかり体を起こし、斜め横向きのまま両腕を握って引き起こす。
このまま自分が抱えてってやりたい気もしたが、それはそれでブーイングを受けそうなのでやめた。

握ったの腕を、背負う体勢で待つ翔太の肩に回してやる。
ぴたりと密着し肩に乗せられた腕を、前へ下げさせるようにしてゆっくり立ち上がった。

「うわっ、くん軽っ」(翔太
「良いから落とすなよな」(岩本
「分かってる、ちゃんと照ついて来てよ?」(翔太

立ち上がった瞬間驚いて照を凝視する翔太、顔が面白い。
兎に角落とさないよう念には念を入れ、2階へ行くよう促す。

「んー・・・」
「あれ、くん起きた?」(翔太
「え?いや、寝言っぽい」(岩本

歩き出した際の振動か何かで、から微かに声が洩れた。
パッと足を止める翔太だが、後ろからついて行く照がを覗き込むと目は閉じたままだと教える。

そっかと一安心し、再びゆっくり階段を上るのを再開。
何だかんだでまだまだ子供なんだなーと、翔太の口許は緩んだ。
ついて行きながら照も熟睡しているの顔を眺める。

とても安心しきってるのが分かり、嬉しいと同時に少し心に何かが引っ掛かった。
俺にも甘えてくれればいいのになーっていう兄貴特有の感情?かもな。

無事階段を上りきり、照が後ろから脇を抜けの個室のドアを内側へ押し開く。
ドアが閉じないよう押さえる前を翔太が歩き、ベッドへ到着した。
小柄な体を支えつつ照が捲ってくれたベッドのシーツに横に寝かせてやった時、あれ?と気づく翔太であった。