「今日はこの後岩本達がレッスンに入る、君にはその様子を見学してもらう」
早速目的の事に話が及んだ。
としてもそれを目的に招かれたので、素直に頷く。
純粋に兄達の打ち込むものと芸能の世界に身を置く様を見てみたかった。
今は19時、兄達のレッスンは6Fにあるレッスン場で15分頃から行われる。
レッスン場には前後に設置された鏡の前で、自分の動きを見ながらダンスをしている。
が何処から見学するのかというと、レッスン場には左右に仕切りが作られ簡易的なスタッフ待機場所があり
その間仕切りの奥からレッスンに励む照達を見学させる手筈になっている。
兄達が今日レッスンしているのは、横浜アリーナで行われるコンサートのダンスとの事。
稽古という単語しか聞いていなかったのもあって、コンサートというのがどんなものなのか想像に難い。
そんな私の様子を表情から察したのか、四月一日さんが参考になるような動画を見せてくれた。
「これは彼らが過去に開催していた時の映像だよ、ざっとこういうのがコンサートだね」
「凄い・・・・」
四月一日が参考にと見せたのは、去年行われたジャニーズJr祭りの関係者用映像。
彼らも少なからず出番があり、他のグループと合同だが多くの曲目で登場していた。
アクロバットを全員がこなしJr歴も長い彼らは、先輩のバックで踊って欲しい等引く手数多。
Jrだから映像に残らないコンサートに舞台に多数関わってきている為実力は申し分ない。
コンサートというものを初めて見た、ただただ規模の大きさに驚いた。
去年は合同で参加していたが、今年のそのコンサート最終日は単独で行う事を任されている。
つまり兄達の実力が事務所に認められ始めて来たって事になるね?
この練習をしながら舞台の稽古も同時進行してたって訳か・・・何だか益々申し訳ない気持ちになった。
あんま大変な時に風邪引いたり迷惑かけたり・・なのに大学院に迎えに来てくれたり看病してくれたりと
何故こんなに優しく出来るんだろう・・・ステージに立ってお客さんを笑顔にしている兄達は私なんかにも優しかった。
「レッスン、見に行ってみようか」
「・・是非・・・お願いします」
言葉で表せないくらい、私は兄達のステージに感激した。
もっともっと見たい、見ていたいと思わせる兄達のパフォーマンス・・
コンサートで見るべきものを間近で見られる機会は二度とないだろう。
意思を確認してくれた滝沢をきちんと見つめ、はお願いしますと一礼。
よし行こうか、と席を立ちエレベーターに向かう。
エレベーターに滝沢とが乗り込んだところで四月一日は乗らず
私はそろそろ次の業務に向かいますね、と口にした。
そう言えば四月一日本来のマネジメントタレントは兄達ではなかった。
気さくで話し易い四月一日みたいな人がマネージャーのKAT-TUNさんも良い方々なのかも
取り敢えず此処まで付き合ってくれた四月一日へ感謝を告げ、滝沢と2人で6Fへ向かった。
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チン、という音と共にエレベーターは目的の階に到着。
レッスン場には2つ入り口があり、Jrが使う方より奥にあるスタッフ用の方からこっそり室内へ。
様々な機材が置かれた長机を囲むように座るスタッフ達。
部屋の中央付近からはカムフラージュされ、仕切りが置かれている。
なのでJr達から仕切りの奥は覗けないようになっていた。
そこからどう見学するのかというと、正面の鏡張りの壁が見えるよう斜めに座り
直接ではなく鏡に映る兄達を覗き見る、てな具合だ。
滝沢に連れられて入室すれば、その場にいたスタッフが総立ちになって会釈。
最早ジャニーズという枠組みを飛び抜けた存在に滝沢は位置している。
と同時にその滝沢に連れられて現れたに対しても、スタッフ達は釘付けになった。
まあ先ずはその色素の薄い綺麗なブロンド寄りの茶髪に目が行くのだろう。
「Snow Man達の末っ子、くんだ」
「初めましてです少しだけお邪魔させて貰いますが宜しくお願いします」
目が合ったスタッフ達に滝沢が口上して紹介してくれた。
見学しに来た身としても失礼のないよう丁寧に名乗り、挨拶する。
一礼して顔を上げるとスタッフさん達の温かい目と視線が合った。
たったそれだけだが、良いスタッフさん達に囲まれて仕事をしてるんだろうなと思った。
待つ事3分後、見慣れた姿と声がレッスン場に届き始める。
レッスン着に身を包んだ6人の兄達が続々と入って来た。
皆丁寧にスタッフ達に挨拶し、宜しくお願いしますと言いながら現れる。
にこやかで親しみ易さに溢れた姿は、家に居る時と変わらない。
どんなレッスンをするのかな、とそれはもう興味津々だ。
その際案内してくれた滝沢が落としたトーンで軽く説明を入れてくれる。
今日は横浜アリーナでの本番を想定し、頭から終わりまでの一連の流れを全通しするらしい。
説明しながら見せてくれた紙には、コンサートで披露される曲目?が書かれている。
ザッと見た限り、曲目は30近く書かれていた。
の脳内に紙の内容が映像で記録されるみたいに飛び込んで来る。
一度そうなると次からは媒体を見なくても瞬時に思い出せる。
「よし、ストレッチしたら一回通してみる?」(岩本
「そうだな、細かい動きとか立ち位置は随所で確認しながらやればいいし」(ふっか
「それか一回最後まで通しちゃう?」(佐久間
各々がストレッチを済ませる頃、長身の兄、照から言葉を発し
集合した他のメンバーからも意見が上がる。
「佐久間の案でもいいけど、途中確認したい事が増えたら忘れちゃいそうだよね」(翔太
「まあそれは有り得るね・・・ふっかの意見を取り入れて、随所で確認する方が忘れなくて良いかも」(舘さま
「俺も舘に賛成、俺覚えるの遅いからその方が助かる」(阿部
真剣な顔で話し合う兄達の会話から、あの阿部が覚えるのが遅いという事に驚く。
何でもこなせてしまいそうな外見からは想像し難い裏話。
ある意味人間らしい一面で、より一層阿部に対する親しみが湧いた。
後驚いたのは、兄達の仕事は表舞台に立つ事だった・・・だね。
テレビで見かけないのはコンサートを主に活躍の場にしていたからだったのかな。
今までの生活環境にジャニーズという世界が無かった為、にとっては全てが初耳だ。
四月一日に見せて貰った去年のコンサート会場はとても広く
例え他のグループと合同のイベントだったとしても、あんな大きな会場を人で一杯に出来る兄達は凄い。
ただそのコンサートが今月の24日からあるのは知らなかった。
兄弟になったばかりだから話すのは避けたのかな・・
と思った時、いよいよ兄達の通しレッスンが開始。
初めて聴く曲調で音が鳴り、開始のポーズを兄達がビシッととる。
指先の角度も腕の角度すらも、一糸乱れぬ動き。
それと間接的にだが、兄達の歌声も初めて聞いた。
力強いラップの声に反して歌声の甘い照。
ふわふわと優しい声で丁寧に歌い上げる深澤。
確かな高音の延びと澄んだ声の翔太。
甘やかで華やかさもある佐久間。
低いハモリと安定した低音でメンバーを支える阿部。
普段と違い、甘い高音パートもスマートにこなす宮舘。
この6色の声が交じり合い、何とも言えない心地よい声が室内に満ちる。
自然と目を閉じて兄達の安定した歌声に聴き入った。
兄達は歌とダンスを卒なくこなし、1曲1曲を丁寧に踊りきる。
あんなに激しく動いてるのに動きが揃ってるのは凄すぎた。
驚きも大きいが、そんな兄を6人も持つ自分は何と贅沢なのだろう・・でも凄く誇らしい。
印象に残る歌や曲もあったりと、通しが終わるまでがあっという間に過ぎた。
レッスンにも関わらず、私は彼らの見せる世界に魅せられていた。
通しを終えた兄達はカメラを向けられ何かコメントしたりしつつ
動きを確認したりする様子を横目に、来た時と同じく静かには滝沢と部屋を出た。
最後まで居たいが万が一仕切りの裏に来られたらバレてしまう。
そのまま別の空き部屋へ案内され、改めて滝沢から質問された。
レッスンを見てみた感想と、印象に残った曲目とかダンスはあった?等。
レッスンを見せて貰った事や兄達のキラキラした姿に感動した
感じたままを伝えたく、先の曲名を挙げた上で何番目に歌っていた『ZIG ZAG LOVE』と『Snow Dream』に
『Boogie Woogie Baby』『VI Guys Snow Man』が良かったと話した。
質問した側の滝沢は挙げられた4曲を紙面と照らし合わし、僅かに目を見張った。
続いて聞いた印象に残ったダンスはあった?について。
どれも良かったが、中でも心に残ったものとして『Snow Dream』と『Boogie Woogie Baby』『VI Guys Snow Man』と答えた。
「『もう少し傍に居て』の手の動きが特に良かったです」
挙げた順に良かった部分を再現して伝える。
ここの歌詞も良くて、胸をうたれたと話している様子を食い入るように眺める滝沢。
ブギウギは歌い出しのAメロから耳に心地いいと話し
サビのダンスも真似し易くて良いと、これまた動きを再現しながら話している。
Y Guysもnanana〜の仕草が好み、と動きを真似ながら話す。
翔太の歌うパートも伸びが良くて聴いてて気持ちいいとも話した。
この感想と再現を見ていた滝沢、顔には出さないがかなり衝撃を受けている。
挙げた曲もダンスも今日が初見とは思えないくらい正確に再現していた少年・・
『Snow Dream』に至っては発表されたのは今月の1日。
歌パートの再現も完璧に合っていた、つまりは音感がかなり優れている。
聴いた音や曲調を再現する事に長けているんだろう。
絶対音感とまでは行かずとも、十分優れている事が伺えた。
そうでなければ今日初見で見聞きした歌やダンスを完全再現するのは不可能に近い。
一度見せただけの曲順や曲名すら、1文字も違えずに言い当てていた事から
類稀な才能を秘めている事は隠しようがないだろう。
これで一般人として生きて来たのだから驚きだ。
歌声は成長期特有の性別を感じさせないものになりそうな印象を受けた滝沢。
磨いたら輝きしか秘めてなさそうな原石を、意外な所から見つけてしまい
これがスカウトしたいと思わせる逸材か・・・と1人滝沢は結論付けた。
「くんは記憶力と音感が優れてるみたいだね、凄く伝わった」
「ホントですか?そう言われたのは初めてなので嬉しいです」
是非とも欲しい逸材だというのは伏せ、率直な感想を感じたままへ伝える。
兄や養父母以外から褒められるのは初めてで、こそばゆく感じるも
嬉しい以外の感想を持たなかったは素直にありがとうございますと返した。
「君さえ良ければまた気軽に訪ねて来て欲しいな」
純粋な興味と感動の大きさから自然と滝沢の口から出た言葉。
言われたは兄達の先輩からの言葉に、心が弾むのを抑えていた。
とても嬉しい事を申し出てくれているが・・本来の性別は女だ。
でもまあ・・・深い意味は無いだろうし、頑張る兄達を見てられるのは嬉しい。
少しばかり兄達より先に帰れば帰宅する皆を出迎えられる。
待ちながら講義の復習等をする事も出来るだろう。
皆が居る場所で行ったらより一層勉強が楽しくなると思った。
何より、歌う事と体を動かす事が嫌いじゃないなと感じる自分もいる。
寧ろ久しぶりに体を動かしたら気持ちがいいし、清々しい気持ちになれた。
「・・・・考えておきます!」