2018年3月15日、卒業式から帰宅したは早々に個室に入り
着ていた服を脱いで、違う服装に変えた。
今日は滝沢からの好意で兄達のレッスンを見学しに行く日。
3月の始め、4日に熱を出したに届けられた事務所の先輩で座長の滝沢からの手紙。
何故か他人のを気遣い、兄達と一緒に過ごせるようにも取り計らいが出来ると申し出てくれた。
が、私はそれを丁重に断っている。
とても嬉しい申し出だったし、兄達と一緒に居れたら安心出来るのは間違いないのも分かってる。
それでも甘えすぎたらダメだと断った。
照さんがスペアキーを私に預けた時、信頼も預けてくれたと感じたのだ。
克服するんだっていう気持ちを応援してくれてる気がして嬉しくて、応えたくなった。
あれからお土産に頂いたクッキーの詰め合わせを兄達と食べ
宣言した通りちゃんと早寝もした。
その日の夜は不思議なくらい呆気なく¨ヒステリー球¨と¨過呼吸¨から回復。
独りじゃないんだという安心感で、久しぶりにぐっすり眠れた。
でまあ、何故今日見学に行く事になったのかというと。
お土産に同封されていた連絡先のアドレスを通して滝沢とやり取りした際
¨良ければ一度、真剣に取り込む岩本達を見学に来ませんか?¨
こう提案して貰ったのである。
正直兄達が身を置く世界がどんなものなのか、興味があったのは事実。
養父から芸能事務所に所属しているっていうのは聞かされていたが、テレビで見かける事は無かった。
だから、その世界を垣間見れるなら是非見てみたいと思ったのだ。
芸能人としてキラキラ輝く兄達を。
今の時間は夕方の18時、迎えはこのシェアハウスに来る事になっている。
ただ、彼らはまだ自分の存在を伏せているので
正門から入るのではなく、裏門から来て貰いたいという話だけしておいた。
服装はなるべく体の線が目立たないようなダボッとしたものに変更。
濃紺のシャツの上にコバルトブルーのダウンジャケットを着込み
深緑色をしたズボンを穿いて、一応色付き眼鏡を掛け、目立つ目をカムフラージュ。
迎えが来るまでに履いて行く靴も出しておこう、と玄関へ。
何だかソワソワして落ち着かないのだ。
靴はあまり持ち合わせがなく、次の土曜に見に行こうかなと考え靴箱を開ける。
そこには6人の兄が履く靴が仕舞われているのだが・・・皆アホみたいにサイズがでかい。
まあそりゃそうよね、182ある照さんが履く靴となればデカイに決まってる。
大体の靴は26〜28かな?お洒落な兄達は、ファッションごとに靴を履き分けるらしく
私の身長より少し高い靴箱に、1人ずつスペースで区切られた靴は大量だ。
最高身長の照さんの目線の高さに合わせ作られたのか、それなりの高さがある。
元々のスペース内で靴が収まらなくなった兄達、独自に作った間仕切りで空間を2段に分けていた。
収納の仕方にも個性が溢れてるのかなと思っていたが
どの靴も1足ずつ買った時の箱に入れられ、重ねられている。
箱に何の靴が入ってるのか分かり易いように撮ったのか、靴の写真が正面に貼られていた。
これ絶対A型さんまたは阿部先輩のアイディアだろ・・・と私は予想。
取り敢えず私に履けそうな靴、とくれば浮かぶのは1人しかいない。
「佐久間さんの靴を借りようかなあ・・でも何て言って借りよう・・・阿部先輩に話とこうかな」
身長差が3pとさほど変わらない佐久間の靴を借りるのが一番適している。
しかし幾ら兄弟とはいえ、物の貸し借りをしないかもしれないじゃない?
潔癖な人もいるかもしれないから借りる前に確認する必要がある。
借りようとしてるのはこのスニーカーだ。
色んなバリエーションと色がある靴の中からトータルで合いそうなのを選んでみた。
先ずは阿部先輩に聞いてみて、それから佐久間さんに確認して貰おうと決める。
借りる理由・・・まあ、これは素直に男物の靴をあまり用意出来なかったので買いに行くまで借りたい
みたいな感じにしておこう・・結構あるあるな理由だと思うのよね。
思い切ってLINEのトークを開き、グループLINEではなく個人宛に阿部へ連絡した。
返事が来る間に乾燥機から朝放り込んどいた洗濯物を取り出し、自分の部屋のクローゼットにしまう。
こういうのは兄達が仕事に出た後に洗濯機に入れ、講義へ向かうまでに乾燥機へ入れておくのだ。
が送信した問いは、偶々タイミング良く夕食を摂っている阿部のiPhoneが受信。
箸で挟んでいたご飯を口に放り込み、自分のiPhoneを見るとグループLINEじゃないトーク画面が出た。
誰だろう?と訝しむが気になったのでLINEを起動、そうする事で判明した送り主の名前を思わず二度見した。
¨あの阿部先輩、男装用の靴の数が無くて明日履いて行く靴に困ってしまい・・買えるまで佐久間さんの靴をお借りしても良いですか?¨
何故佐久間の?と疑問に感じるが、結構すぐ納得した。
2人は一番身長差が無いし、三次元オタクの彼は結構色んな種類の靴を持っている。
翔太ともサイズは近そうだが気軽に借りれそうなやつが無かったのかな。
もう少し聞いてみると、靴は明日か明後日か次の土曜には遅くても買えると答えが返される。
まあそのくらいなら佐久間は快く貸してくれるだろう。
なので伝えておくから借りていくといいよ、と返信しておいた。
自分達はこれからコンサートのレッスンに入る、からの返答は見る間もない。
レッスンが始まる前になるべくやり取りを済ましておこうと阿部は考えた。
事務所内に造られたカフェスペースでモグモグしつつ辺りを窺う。
LINEしてもいいんだがめんどくさい(
どうせなら上手い具合に佐久間がこの辺を通らないかなーって思いながら。
佐久間本人にまだ確認出来てないとは思いもしなかった。
早速目に入った黒地に白のラインが入ったスニーカーを取り出して玄関に置く。
そのタイミングで庭を歩いてくる足音が聞こえた。
いよいよだ、事務所から来た迎えの人に違いない・・・
一応インターフォンが鳴るまでリビングに待機。
悪い事をするとかでもないのに緊張して来た。
そして玄関の前に立つ人の気配、その数秒後来客を知らせるインターフォンが響いた。
と同時にリビングから荷物を手に玄関へ行き、施錠してある鍵を開ける。
ドキドキしながら玄関のドアを内側に引いて開ける。
「――こんばんは、くんですね?」
開くドアの奥から聞こえる大人の声。
接するのは慣れないが、予め来る事は分かっているので怖さは微々たるもの。
問い掛けに頷いて肯定し、現れた事務所の人へ視線を合わせる。
そこに立っていたのは人の好さそうな温和な顔つきのまだ若い青年。
身長は・・・深澤と同じくらいの高さだ。
思ったより感じの良さそうな人、自然とも緊張が和らいだ。
「初めまして、俺は四月一日 悟といいます」
「よ、宜しくお願いします。」
現れた迎えの人は丁寧に名乗ると、名刺をへ向かって差し出した。
そこには社名と身分が記されている。
KAT-TUN統括マネージャー兼広報宣伝部長 四月一日 悟。
あまり知らないというか全く知らない呼び方のグループ?
マネージャーを担当する傍ら広報宣伝部長を兼任しているといったところか。
を迎えに来たのも広報宣伝部長としての役割だろう。
「出る準備は大丈夫かな?裏手に移動車が停めてあるから行けそうならこのまま向かおうと思う」
「準備は出来てます、宜しくお願いします!」
名刺に目を通しているに丁寧に確認をしてくれる四月一日。
予め準備は完了しているとも答え、そのまま目的地へ向かう流れとなった。
玄関をしっかり施錠し、四月一日に続いて家の裏門に停めてある移動車へ乗り込む。
この時間なら人目に付くリスクも少ないから大丈夫だろうと四月一日も思案。
迎えに来て四月一日は少し驚いていた、自分のマネジメントしているKAT-TUN以来の衝撃を感じたから。
彼らが6人の頃も大分華やかな印象と、これは売れるという確信めいたものが凄かったが
今迎えに来たという少年は芸能人ではなく一般人だ。
喋る声は成長期特有の中性的なもの、しかも髪色が綺麗な茶色で目を惹く。
色のついた眼鏡から一瞬見えた瞳は薄い青で、不思議な色だなと印象に残る。
これで一般人なんだから今は凄い世の中だなあと四月一日は感嘆させられた。
ひょっとしたらモデルとかやってるのでは?と勝手に想像しながら四月一日は車を発進させた。
向かうのは改装されて綺麗に新しくなったジャニーズ事務所。
KAT-TUN絶世起の頃は出待ちも多く見られたが、新しくなってからはその光景もあまり見かけない。
今までは正面を通ってそのまま玄関に横付けしていた為、結構簡単に見れた。
が、今ではタレントが入る際正面からじゃなく、専用の通用口からに変わり
気軽に姿を見る機会は減った、その為押し掛けるファンも自然と減ったのだ。
車を走らせ向かう中、会話は少な目だった。
事務所に行く際道路が空いていた事もあり、30分程度で到着してしまった。
出待ち等の姿のない正面の入り口から堂々と車を滑り込ませ、地下駐車場へ車を停める。
通用口は地下に造られ、そこからエレベーターに乗り関係者のみが使うドアから事務所内へ。
「ここがジャニーズ事務所だよ、移動お疲れ様。」
という四月一日の案内で中へ入った事務所の中は大変洗練されており
これは事務所というよりお洒落な会社かインテリなお店では?と内心は驚かされた。
カウンターの設置された食事するスペースに、カフェテリアみたいなスペース
それから寛ぎやすい畳の部屋までが、歩いて行ける範囲に造られている。
何処を見てもお洒落で行き届いた空間、はついキョロキョロと見渡してしまう。
四月一日は興奮した様子のを見て、年相応だなあと微笑む。
黙っていると大人びているが、今みたいな面を見るとまだ子供っぽいんだなと微笑ましくなる。
ただ思うのは、あのSnow Manの末っ子と聞いているだけに・・・目を惹く子だなとしみじみ感じた。
「運転ありがとうございました、四月一日さん」
「いいのいいの、それより俺の名前もう覚えてくれたんだね嬉しいな」
「覚えるのは・・・得意なので」
「いいねえ俺なんて覚えるの苦手な上にメモも下手だから新人の時はよく怒られたよ」
「そうなんですね・・でも¨書く¨っていうのは良い事ですし、決して無駄にはならないと思います」
「・・・何ていい子なんだ・・・・って、話し込んじゃったねごめんごめん。」
しかも話してみたら聞き上手だというのも判明、何故か四月一日自身の愚痴を話してしまっていた。
話を聞いてからの返し方も上手いなあこの子・・まだ16か17だよね?しっかりしてる。
ついつい話し込んでしまっていたが、ハッと本来の目的を思い出した。
をカフェテリアのコーナーへ誘導し、空いている席に座って貰う。
(Snow Manがハーゲンダッツを食べてた場所です)
「今滝沢を呼んだから待ってようか、何か飲むかい?」
仕事用のスマホから本人に連絡し、席に座っているへ問う。
此処はお金も要らず、在籍しているタレントや事務所関係者は無料で飲み物も飲めるし食事も出来る。
遠慮しようと思っていたが、無料で利用出来るから遠慮しないでと言われ
それでは・・・アイスティーを、と謙虚な姿勢で頼んだ。
今時の高校生はしっかりしてるなあ・・by四月一日
因みに四月一日はの事をどのくらい把握してるのかというと
名前と年齢、シェアハウスにてSnow Manと暮らす一般人の末っ子。のみ。
今年17になるなら高校生なんだろうなと考えていた、まあ普通は皆そう思うだろう。
DOUTORの機械で自動的に作られたアイスティーと、コーヒーを手に席に戻る。
席に着くと同時にスマホに返事が届き、滝沢が今向かう旨が書かれていた。
冷たいものにしてよかったかも、と思いながらと共に四月一日はコーヒーを飲み始める。
一般人の少年に、兄弟のレッスン風景を見せるて事は
この子はジャニーズの世界に興味がある感じなのだろうか?そんな疑問も沸く。
普通ジャニーズ事務所はレッスン風景を外に発信したりしない。
そういう裏側を見せるのを決めたのは、今月の始めの社内会議からだろう。
世間にはまだ伏せているが、今年に入った時から滝沢自身の言葉で後進を育成したい考えを幹部は受け取っている。
手塩にかけて育て、今日に至るまでジャニーズの顔でもあった滝沢秀明。
社長を務めるジャニー喜多川も滝沢には期待をしているし、それならばと子会社を任せる考えすら見せている。
早くも社内改革を始めた滝沢、今回のYouTubeの件も彼が発表した企画だ。
今は拓けた世界、鎖国している時期は終わりを迎え、これからは発信していく事が大事だと。
そんな考えの滝沢だからこそ、今回一般人とはいえ目を惹くものを持つ彼を招いたのかもしれない。
そこまで思案した時、近くにあるエレベーターの扉が左右に開き1人の男性が現れる。
一目見ただけで分かるこのオーラ、精悍な眼差しが此方へ向けられ待ち人は現れた。
「四月一日さん、お待たせしました」
そう言いながら爽やかに笑みを浮かべ、待ち人がカフェテリアコーナーに到着。
彼こそがを招いた本人、滝沢秀明その人である。
キラキラが凄い、と滝沢を初めて見たは目をパチクリさせた。
街で擦れ違ったら誰もが振り向いてしまうそんな強烈なオーラを纏っている。
眺めていたら目が合い、優しい笑みが向けられた。
「君が・・くんだね?初めまして滝沢秀明です。今日は来てくれてありがとう」
「あ、はい。此方こそお招き下さりありがとうございます、と申します」
その場に立ったは、対面した滝沢へ深いお辞儀をした。
身長は平均より低いが、それが気にならないくらい容姿が目を惹く。
顔を上げたへ座るよう促し、滝沢も相向かいの椅子に座る。
目黒からの報告で聞いてはいたが、直接本人を見るとより印象が強烈に残った。
色素の薄い茶色の髪と色付き眼鏡の奥にある変わった光彩の双眸。
これだけでも表舞台に立つには十分印象に残るし目を惹く要素だ。
後は他のジュニアから頭一つ抜きん出た何かかあったら、またとない逸材になる。
それらを探るべく、今回事務所に招いたという隠れた目的を秘めてこれからの予定を滝沢は説明し始めた。