あの日から数日後の3月15日、大学院の卒業式が行われ
心強い味方の阿部亮平は、上智大学大学院を去った。
この時点でSnow Manの皆は5日後に1つの大きなイベントを控えていた。
ジャニーズで初のYouTube動画配信サービスを開始する為の記者会見が予定されている。
彼らの他に次世代のジャニーズグループがチャンネルを持ち、各々個性豊かな動画を配信して行くそうだ。
記者会見には多数の記者が招待され、自分達はその場でPRを行い合う。
今日も夕方からその為の打ち合わせが予定されていた。
なので卒業式後の学生同士の集まりには参加するつもりはない。
元より阿部は芸能人、一般の学生の集まりに参加したら大変な事になるのは目に見えている。
「阿部先輩、卒業式堂々としてたなあ・・」
大学院の敷地内では在校生と卒業生らの輪が出来ており
泣きながら握手する後輩と笑顔でハグし合う先輩、てな構図が彼方此方で見られた。
本来なら高校2年になる年齢のは、それらを1人空き教室から眺めている。
ただでさえ目立つ自分が、阿部先輩の所へ挨拶に行った日にはすぐ騒ぎになるだろうし
普通の学生として此処を立ち去りたいと考えてそうな阿部先輩に迷惑を掛けてしまうもんね・・・
ピロン♪
不意にミュートにしてなかったiPhoneが何か受信した。
¨大学院卒業、おめでとう阿部¨
開いてみるとそれは兄達とのグループLINE。
そこに先ず飛び込んで来た卒業を祝う文、発信者は宮舘さんだ。
今日兄達はとっくに職場に行っているはずだからきっとその合間に送信したんだね。
は知らないが、2011年から阿部と宮舘の間には不仲説が流れていた。(管理人どんくらい不仲だったのかは把握してないです;
学業に専念する為阿部は芸能活動を休止したいと申し出た故、メンバーは反対したが阿部は強い意思で休止を選んだ。
その事が2人の間に溝を生み、会話も減ってやがては目すら合わさなくなっていた。
不仲は周りにも知られて行き、当時の深澤達も放置するしか術がなかった時先輩にあたる滝沢の計らいで危機を乗り越えたらしい。
それを経ての卒業祝いの言葉。
勿論阿部もこれに気づき、iPhoneの画面を見たまま数分だけ目を閉じた。
不覚にも涙が毀れそうになったから、流石に此処では泣けない。
今は心を落ち着かせて、宮舘から届いた祝いの言葉にきちんと返事をした。
¨ありがとう、これからはこの経験を無駄にしないよう皆と一緒に頑張らせて下さいね¨
涙で滲む目を隠すようにしながら何とか発言を送信。
宮舘が敢えてグループLINEという皆からも見える場で祝いの言葉をくれたのは多分、こういう意図があったのかな。
俺達はもう大丈夫、皆で同じ方を向いて突き進むよ。
宮舘は静かな中に熱い思いを持っている男だ。
納得できない事はとことん態度や言葉に出す、その代わり納得し
受け入れてしまえば、相手を理解しようとしてくれる。
その上で相手と同じ目線に立ち、その時相手がどんな事を考えていたのかと寄り添える男でもあるのだ。
だから不仲になってしまっても滝沢の助言を聞き入れ、阿部と長時間話し合った結果
当時の阿部の考えを寛容に受け入れ、理解してくれたんだと思う。
対する阿部も、熱い宮舘の気持ちや考えを知る事が出来た良い機会となった。
自分達6人は始めから今みたいな関係性だった訳じゃない。
2012年辺りに竜憲に各所の孤児院から引き取られ、共に過ごした幼少期で先ず仲良くなり
宮舘はその頃の調理人から簡単な料理を学び始め、今ではイタリアンまで自分で作れる腕前だ。
下らない事で何回もケンカした、野郎が6人も居ればそりゃあ揉めるよね。
でもそのお陰で役割が生まれ、絆も深まったと思う。
年下なのにしっかりした照が自然と皆の中心的な男になり
最年長だったふっかが自然とまとめ役になった。
同じく最年長の翔太は厳しく皆を指導するような立場へ。
最年長佐久間は誰よりも周りを見て発言したり叱ったりと
自分自身や周りを元気にするような男へ変わった。
皆それぞれ葛藤もあったし悩んだり傷ついたりしてきたと思う。
そんな中で揺るがなかったのは、全員に共通した資本¨この6人のSnow Manが自分達の居場所¨と
自分達が帰って来れるこの場所を守りたい、ただそれに尽きるこの資本がブレなかったから今があるんだと阿部は思っていた。
傷つけ失ったものもあるけど、いつだって見渡せば傍に仲間がいた・・
こんなにも自分の人生を左右し、かけがえのないものになるとは・・・当時は思いもしなかったなあ。
感傷的になってしまう自分に笑いもしたが、バカバカしいとは思わない。
そう思えるようになった自分を褒めてやりたくなった。
その間にも他のメンバーから立て続けに祝いの言葉がグループLINEに寄せられる。
¨卒業おめでとう阿部、それと、お帰り。これからはSnow Manの為に頑張って貰うからな?¨
先ず寄せられた照からのコメント、何だか強く感情を揺さぶられた。
よく頑張ったな、と言って貰えてる気がして苦労して引っ込めた筈の涙がまた浮かぶ。
¨阿部ちゃんホントにおめでとう!お疲れ様、これから立て続けに忙しくなるけど打ち合わせ迄ゆっくりしろよー?¨
照に続いてポップした深澤からの言葉。
祝いと労いの言葉に心が温かくなる、が、ちゃんと後半現実に戻してくる辺りがふっからしいなと笑えた。
¨卒業おめでとう阿部、大学から大学院を通して学んだ事は今後活きると思う 頼りにしてるからな¨
続いて届いた翔太からの言葉もまた、ジーンと来るものがあった。
あの頃の翔太、怖かったしなあ・・・反対もしてたしね。
でも今は卒業を祝う言葉をくれた、何だかとても感慨深くてしんみりさせられた。
¨阿部ちゃん卒業おめでとう!気象予報士に続いて初の院卒アイドル誕生じゃん!!俺らの事、世間に広めてくれてサンキュー!!¨
これからもこの6人でジャニーズのてっぺん目指そうぜ!と佐久間からの言葉締め括られている。
あの頃反対していたメンバーから、こんなにも温かい言葉を貰えた事に心の底から思った。
やりたい事をやり通せて、きちんとメンバーに結果を示せて本当に良かったと。
阿部は皆からの温かな言葉を見て更に頑張りたいという気持ちに駆られた。
デビューしたいと思う気持ちがより一層強くなったと思う。
因みに阿部は今、比較的静かな校内の廊下を歩いている。
時折擦れ違う講師らに会釈したり感謝を伝えたり、在校生らの言葉を受け取ったりと
そうしながら歩くのは1つの目的があるから。
はというと、卒業ムードに賑わう正門前がもう少し落ち着いてから帰ろうかなと考えていた。
前回阿部が迎えに来てくれた時に使用した裏門に行くには、正門の塀に近づかねばならない・・
側面にあったから玄関を出たら横に逸れるだけで良いとは思うが、そこに行く過程で目立ってしまう。
この外見のせいと、自分自身の経歴がそうさせている状況。
だが私はこの外見と血筋に誇りを持っている。
人とは違う外見は目立ってしまうけど、簡単に得られない個性を持てたのだと思えば気にならない。
でも変なものを見るような目で見られるのはまだ慣れそうにないや。
図書室にでも行こうかなと移動しようと考え、iPhoneをスリープにする。
兄達のやり取りは静観するだけにしていた。
自分には到底計り知れない兄達の強い絆、そこに準ずる信頼とか諸々を見せられたらとてもじゃないが発言出来そうになかった。
兄妹になったばかりの自分が簡単に言葉を贈ってもいいものかと感じ
心の中だけで祝いの言葉を呟き、誰かに見られる前に移動を開始した。
そこへ掛けられる言葉が、の歩みを止める。
「君は俺に言ってくれないの?卒業おめでとうって」
「あ・・阿部先輩」
私の足を止めたのは、今別の場所にいると思ってた阿部先輩だ。
院内の講師や院生からも人気が高い阿部。
きっと彼方此方から声を掛けられ、皆の輪の中にいるとばかり思ってただけに驚いた。
濃い目の紺色で統一したダブルのスーツに身を包んだ阿部はかなりカッコイイ。
開いたドアに寄り掛かり、腕を組んで足を組むように立つ様はモデル。
流石芸能人だなあと思わせるオーラが出ている。
にしてもよく此処にいるのが分かったなあ・・・
と言いたい顔に気づいたのか、ドアから教室に入りの前に来た阿部は言う。
今いる教室がある階は、正門も中庭も見えるばかりか普段使用する機会のない所だから1人になるには好都合な場所だからと。
まあ流石の推理、ていうか読みの鋭さだよね・・。
「君からも祝って欲しいな」
とか首を傾げるようにして言ってくるのはかなりあざとい。
それは兎も角祝いの言葉を伝えたい気持ちはあったから、贈る事にした。
「ご卒業おめでとうございます、阿部先輩」
そう言って間近に立つ阿部を見上げる。
目が合ったら何故か咳払いされた(なにゆえ
コホンと横を向いてから目線だけ此方に寄越して阿部は言う。
「ねえはさ、よく人たらしだねって言われたりしない?」
「人たらし・・・・無いですね」
「そっかあ・・罪深い子・・・・・(後半小声」
「うん?え?何か言いました?」
「いや何でもない、取り敢えずそろそろ帰ろうか」
「??はい、途中で私は着替えてから帰ります」
聞かれたままを答えたのに不思議なリアクションをされたら気になるじゃないか・・!
内心はそう叫びながらも表面上には出さず、阿部に続いて教室を出た。
外から聞こえる賑やかな声は、まだまだ卒業ムードに沸いている事を窺わせる。
阿部とは一定の距離を保つようにしては玄関に向かう廊下を歩く。
一瞬だけ刺すような鋭い視線を背後から感じて振り向いてみる、がそこには誰もいなかった。
夕方から始まる打ち合わせに間に合わせる為、裏門への行き方を改めて阿部はに確認。
私がちゃんと覚えている事を確認すると、先に向かうからまた夜にね!と急ぎ足で走って行った。
独特な走り方だね?
時間はまだ15時半過ぎ、帰っても兄達は居ない。
が、外をぶらぶらして帰るよりあの家で皆を待ちたい気持ちの方が強く
途中の公園にあるトイレで着替える為の荷物を手に、祝福ムードの大学院をコソコソと出た。
まあ校舎を出るまでも視線は向けられたりした。
何となく思い切って試しにさようなら、と会釈してみる。
会釈してみた相手は偶々同学年の院生だった、キョトンとした後その人はわたわたとしていたね
でもそのリアクションは嫌そうなものではなかったのが何か意外で、ちょっと嬉しくなった。
それからも視線は向けられたが、落ち着いてみてみると全てが奇異的なものじゃないと分かる。
目が合った人にはどう思われてもいいやと会釈しながら裏門を目指した。
リアクションはそれぞれ違ったりしてそれを見るのも楽しいなと感じてる自分が居る事に驚く。
兄達が素直な気持ちで阿部へ卒業おめでとうと贈っているやり取りを見たら
少し、ほんの少しだけ¨おめでとう、ありがとう¨と言い合える関係を誰かと築きたいと思ったのかもしれない。
+++
時を同じくして都内某所にあるジャニーズJrの事務所にある一室では
5人の青年が机を囲み、配られた書類を手に座っていた。
打ち合わせが始まるのはまだ先なので、今はまだ各々が寛いだ状態。
1時間ちょいすれば5日後に迫る記者会見に向けた打ち合わせが始まる。
ジャニーズで初めてのYouTubeチャンネルを開設するという記者会見だ。
今回の打ち合わせは大まかな流れと何をアピールするのかの意見交換をメインとし
具体的な開始時刻から終わりの時間内で何処まで自分達を知らない層にアピール出来るかが争点になるだろう。
共に出場するジャニーズには、これまで何度か共演した事のあるstone'sは勿論
トラビスジャパンやハイハイジェッツ、東京B少年と将来が有望な実力ある者達ばかりが名を連ねている。
「なあなあ照、記者会見でアピールする事の話とかもうしとかない?」
書類を見つつiPhoneを眺めていた照の所へ横から声がかかった。
顔を見ずとも分かる、声の調子から察するに佐久間だろう。
察するに楽しみ過ぎて早くその話に没頭したいんだろうなと予想。
「んー・・まあ始めとくか、何だかんだで早く集まっちゃったし」
「うんうん」
あまり早く始めても本来の時間までに話し過ぎて案が出ないかもと案じたが
先にある程度まとめておけば早く次の現場に向かえるかもしれないと思い直し
佐久間の提案に乗る事とした照、草案の書かれた大まかな書類で流れを確認しつつ話を始める。
Snow Manは誰か1人でも真剣に話を始めると、ふざけていた他の面々が自然と集まり
気づけば全員でいつしか真面目に話し合いに没頭してる事が多々あるグループである。
今回もそれに等しく、各々寛いでいた筈が無意識に顔を寄せ合い早めの打ち合わせを開始していた。
今日は打ち合わせ時間を17時〜18時と設け、その後は千秋楽の迫るジャニーズJr祭りへ向けたレッスンが予定され
19時15分にはレッスン室へ向かう手筈になっていた。
幸い同じ事務所内で移動が済んでしまうので、夕飯とかも事務所内の食堂で済ます。
「皆お待たせー」
打ち合わせ開始30分前になる頃、大学院を卒業した阿部が会議室に現れた。
現れた阿部に気づくなり、5人が一斉におめでとう!と賛辞を贈る。
Snow Manの末っ子、阿部の大学院卒業を心から皆喜び、称えているのが分かる光景だ。
「これで全員社会人だな!」(佐久間
「社会人?なんかな、まあその辺は気にしなくてもいいよね」(ふっか
「いや気にしようよ(笑)」(阿部
「グループLINEにくんの発言なかったけど、大学院で会えた?」(翔太
わーー!と寄って来た兄達に頭をわしゃわしゃされたりハグされたりと
もみくちゃになりながら、会えたからくんにお願いしてお祝いして貰ったよと答える阿部。
これに対し何故か佐久間が¨いいなーースクールライフ!!!¨と興奮している。
ただ飛び級して来る時期や養子に来る時期が合わなかったのもあり
一緒に大学院に通うとかいう事はしてあげれなかったけどね、と苦笑交じりで佐久間へ言う。
それでもいいじゃんー!と兎に角スクールライフにやたらと興奮している佐久間であった。
兄弟が同じ学校へ通学時間を合わせて通うとかいうやつ?に憧れたらしい。
大興奮の佐久間に誰一人と共感をしなかったが、スクールライフというワードで興奮出来ただけで満足したようだ。
一歩間違えると不審者になりそうな発言の佐久間を寒い目で見つつ話を再開。
「阿部は俺らの話で出た案をホワイトボードに書いて」(岩本
「はいよ、てかまだ早くない?」(阿部
「まあそうなんだけどやたら張り切ったやつが話し合いしようよとか言い出したからさ」(岩本
「だって楽しみ過ぎて早くこの企画の話したかったんだもん」(佐久間
「それなら早めにある程度決めちゃった方が、次の移動までに時間も作れそうだねって事で話し始めてたんだよ」(舘さま
ホワイトボード用のペンを阿部に手渡した照に返事したがまだ打ち合わせまで30分ちょいある。
まだ早くない?と聞いてみたら言い出しっぺの佐久間に照は視線を向けた。
まあワクワクする気持ちは分かる、今まで事例の無い企画だしな。
照と佐久間の言葉に補足する形で入る宮舘からのフォロー。
それを聞くと不思議と¨確かにね¨てな気持ちになるから不思議なものだ。
記者会見は長時間ではないので、1つのグループに割り振られた時間はまあ持ち時間10分15分くらいだろう。
その中でアピール出来る事は限られてくる。
特技を披露するメンバーはある程度決めとくべきだろうと阿部は発言した。
同じ頃、本来の姿から男装へ切り替えたが1人
目立たないよう裏門からシェアハウスへ帰宅していた。