突然現れた照から、早抜けしてくれと頼まれたのは阿部だった。
阿部とは共に養父の言葉を聞いた仲、何となく任せ易かったのが本音。
本当なら照自身が行きたかったが、重要な局面の稽古というのと
1人が抜けた穴を埋める事とカバーする為、後はリーダーとして残るべきだと感じ
努力の天才であり比較的役割の少ない阿部に託す事にしたと言う訳だ。
任される側の阿部も突然の話に驚かされた。
滝沢の事を疑う訳ではないが、意味もなくただお土産?を渡す為に目黒を伴わせたのは不可解。
別に早抜けするメンバーに持たせるのでも十分事足りるだろうに・・
その点は気になったが、任された阿部は稽古後
同じく指示された目黒と共に17時半頃早抜けをした。
そうして帰ってみたらあの状態だったと。
ヒステリー球状態に加え、過呼吸を起こしているをリビングのソファーに下ろす。
「照の作った物じゃないけど白湯を用意してくるね」
「・・・・」
「目黒もソファーに座ってて」
優しい声音でへ言い聞かせるように言い
後から遠慮がちに入って来た目黒にも座るように告げる。
キッチンに入り、白湯を用意する為手持ち鍋をセット。
水道を捻って水を鍋に満たしていく。
飲み慣れた照の作る白湯ではない自身の作り方で用意し始める。
アイルランドキッチン形式なので阿部の様子は向かい合いで確認出来る。
が、名前しかまだ知らぬ相手といきなり対面でソファーはキツイ。
何となくまだ落ち着かず、目黒と呼ばれた青年へおずおずと一礼し
それからゆっくり歩いてキッチンに立つ阿部の方へ行く。
温度調節と鍋の様子を見守る阿部に近寄り、右腕をギュッと握り締めた。
それに気づいた阿部の目がへ注がれる。
ぎこちなく見上げれば、思いの外優しい目の阿部と視線が合い
13cm差で上から優しく問われる。
「まだ苦しい?」
そう聞かれると泣きそうになってしまうくらいに安心した。
照さんの気遣いも嬉しかったし、何より自分は今1人ではない。
でも見知らぬ人とソファーは落ち着かないのだ。
まだもう少し傍にいて貰いたい一心では口を開く。
「苦しさは、まだ残ってる・・けど先輩の傍の方が安心するから・・此処に居ても良いですか・・・?」
「・・・・・」
「・・ご、ごめんなさい」
何その殺し文句
末恐ろしい少女は俺の傍に立ち、頼りない力で右腕を握って来た。
彼女としては本当に不安だから言ってるんだと思う、が、これ末恐ろしいぞ・・・
クオーターの儚い容姿で言われたら男はイチコロで転がせそう。
思わず凝視してしまった阿部、その兄の表情で自分が変な事を口にしたのだと感じ
咄嗟に謝るとソファーに戻るべく踵を返した、が、歩き出せない。
顔だけ振り向かせて阿部を見ると、爽やかな笑みを浮かべて言った。
「可愛くお願いされると兄ちゃん弱いなー、いいよ居て」
可愛くお願いしたつもりはないが居ていいよと言って貰えた事には喜んだ。
パァッと顔を輝かせたへ¨辛くなったら寄り掛かっていいよ¨と付け足す。
仲の良い雰囲気をソファーで待つ目黒も静かに眺めていた。
自分を見た時のあの怯え方は単に知らない男だから、て言うのとは違うと感じている。
目黒に対して警戒はしているがソファーを立つ際には会釈もしていた。
それなりの一般的な礼儀は心得ているのか、それとも気を使っているのかのどっちかだろう。
取り敢えず滝沢へ報告すべく、2人がキッチンに居る間に素早くiPhoneを取り出すとメモ帳アプリに簡単にメモした。
見た感じ阿部とに年齢差はあるのは間違いない。
先輩と呼んでいる所から且つて同校だったのだろう。
メモを終えた所でキッチンの気配が動く。
チラッと見たら丁度白湯が完成、それをマグカップに注いでいる所だった。
白湯を注いで貰ったマグカップを手に、阿部が移動するのを待ってからも歩き出した。
まだ自分の事を警戒してるんだろうなと感じてちょっと複雑な気持ちになる目黒。
「目黒お待たせ、君にはこっちね」
「あ、いえ、これ渡したらすぐ戻りますんで」
「まあ折角来たんだしお茶くらい飲んでってよ、ほらも目黒に言わなきゃならない事あるだろう?」
「はい、じゃあ・・うん?」
戻って来た阿部に言葉と同時に差し出されたのは湯飲み茶碗。
熱くないようお茶が注がれた茶托ごと眼前に出された。
流石に居座らないよう決めていたところに茶を出され、焦る目黒。
確認も出来たしお土産とやらを渡せばお役御免だと考えていたので吃驚させられた。
遠慮したがニッコリと笑む阿部を見たら断るのも失礼だなと感じ茶托と湯飲みを受け取る。
湯飲みを受け取った目黒を見た後、阿部は自分の右側に向かって声を掛けた。
何だろう?と思ったがすぐ判明、目黒から見て左側にはまだ立ったままのが居たのだ。
何か言い淀んでいる様子だったが、なるべく怯えさせないよう窺うように見やる。
そうしているうちに視線が合い、そっと視線は逸らされたがと呼ばれる少年はその場に膝を折り
「あの・・目黒さん、さっきは怖がったりしてすみませんでした!その、不審者かと思ったので・・・」
と一礼したのだ。
正直面食らった目黒は謝罪して頭を下げた少年を凝視する。
サラサラした色素の薄い茶色の髪が前へ移動した。
絹のような綺麗な髪、触ってみたくなる気持ちを我慢してから
丁寧な謝罪をしたへ努めて優しく声を掛けた。
「いやその別に謝る事じゃないでしょ、脅かしたのは俺の方だし・・寧ろ俺が謝る」
脅かしてごめん、と顔を上げたへ目黒も一礼した。
目線を合わせる為中腰になるようソファーから立った目黒をはマジマジと見つめてしまう。
この人も兄達と同じ、誠実で自分のような子供と対等に接してくれる人なのかな・・と感じた。
話し方はちょっとぶっきらぼうだけどその中に気遣いも窺えたから面食らった。
よくよく見れば目鼻立ちが整ったかなりの美青年、こういう人もいるんだなあとしみじみ。
やがての視線に気づいた目黒が¨ん?¨といった感じに首を傾げる。
そこでマジマジと見過ぎたと気づき、もう一度はごめんなさいと謝罪した。
初めて見たんだ、貴方みたいに綺麗な男の人をと。
正直に返したら阿部も目黒も虚を突かれ、双眸を刮目させる。
それから口許を隠した目黒が何か言いたそうな目を阿部へ向けていた。
「阿部くん・・いつもこんな風に話してるんすか?」
「いやあ・・どうだろう、此処に来たばかりの時は今みたいではなかったから」
「ほー、つまりごく最近って事すね?」
「???」
「んー・・そうだね、そうなるかな」
「何かちょっとズルいっすね」
「え?何か言った?」
阿部と目が合ったタイミングでヒソヒソと小声で問う。
何と言うか今まで接した事のないタイプの人間だなと目黒はに対して感じた。
普通なら照れて言えなさそうな言葉をサラっと口に出来てしまう。
言うなればそれは本当に心で感じたから口にしたんだなって此方も素直に受け取れてしまった。
こういうやり取りをいつもしてるのかと純粋な問いにしてみたら
先輩である阿部は意外にもいつもではない、と返した。
気になる単語も口にしつつ最近がこんな感じかなと締め括った。
詳しい事情とか人と成りを知らない目黒、詮索するのも好きではないので
敢えてこのシェアハウスに住むジャニーズの先輩らの構成には突っ込まずに置き
何かズルいなと感じたままをボソッと言うに留めた。
「何でもないっす」
面白いなと感じたから出た言葉でもある。
小柄な体型からして目黒よりは年下っぽい、目上に対する接し方も好感が持て
悪いと思った事は素直に謝れる潔さは目黒の中で結構な好印象だ。
滝沢が何故この少年の事を代わりに見て来るよう言ったのか、何となく察する。
目を惹く外見と容姿、少年から青年へ成長して行く一番変化も大きな歳の頃。
世間慣れしてない感じがまた危なげで目を惹くのだ。
後気になったのはの瞳の光彩、自分へ謝罪する為近くへ来たその顔を窺い見た際見えた不思議な色の目。
もっと見ていたいと思わせるくらいには惹き付けられる光彩をしていた。
双方が謝罪し合った後、既には目黒の横から正面へ移動し
阿部に入れて貰った白湯とやらを飲んでいる。
「そう・・?あ、それより目黒の持たされたお土産って何だろ」
対する阿部は目黒の問いに答えてからもその様子を眺めていた。
チラチラとへ向けられる視線、何となくだが好意的な目線だなとは思った。
探る風もないので取り敢えず滝沢に持たされたらしきお土産の話を持ち出してみる。
すると目黒も自分が此処に来た本来の目的を思い出し、右側に置いていた紙袋を膝の上に乗せた。
「そうでした、えーと・・おみやげ?です」
「目黒はもう怖くない?くん」
「・・・はい」
出してみたもののどっちに渡せばいいのかを阿部に視線で問う。
すると阿部は目黒から視線を外し、左側に座るへ向けた。
優しい口調と声音で問いかける阿部。
普段のレッスンとかでは中々お目にかけない姿もこれまた新鮮だ。
本当に弟の事を大事にしてる様子が接し方に現れている。
問われたも視線を阿部に向け、それからチラッと目黒を窺い見てから
コクリと1つ頷き、肯定を返した。
そのやり取りを見届けてから目黒はゆっくりした動作で紙袋を持ち
間にあるテーブルの上辺りでキープさせ、の目を見てから言った。
「阿部くん達と俺も所属してる事務所の先輩兼座長の滝沢くんから君に」
普通の社会人で会社勤めだった場合、自分の所の社長を敬称や愛称を付けずに告げる。
が、彼らは一般人の勤める会社とは違う事務所に属する人間だ。
一般常識とは異なる次元な為敢えて敬称を付けたまま目黒は手渡す。
まあ目黒がそこまで考えて口にしたかは定かではない(失礼
中身は知れないが長く持たせたままは失礼なので、躊躇いはしたが腕を伸ばし紙袋を受け取った。
受け取った紙袋の中に見えたのはとても美麗な包装紙に包まれた箱。
それから箱の上に添えられた手紙のようなものも見えた。
「それじゃ俺はこの辺で失礼します」
「分かった、わざわざありがとうね目黒」
「いえ、俺は滝沢くんに頼まれただけなんで」
「それでもだよ、目黒も稽古やレッスン大変だろうに」
「それ言うなら阿部くんもでしょ(笑)」
確かに、と阿部は目黒に笑って返す。
がお土産を受け取ったと同時に立ち上がった目黒の口調は中々に砕けている。
気を遣わせない接し方が自然と出来る阿部の為せる技。
だからこそ目黒も自然体で先輩の阿部に遠慮なしに言えるのだろう。
見ていて気持ちのいいやり取りだなとも感じた。
紙袋を体の横に置き、大分落ち着いて来た呼吸を整え直してもソファーを立つ。
見送りに向かう阿部の後ろへ移動した。
勿論2人もその姿に気づき足を止めてを見下ろした。
「?もしかして目黒の見送りかな?」
「・・め、目黒さん・・・」
「(かわいい)・・うん?どしたくん」
背の高い2人に同時に見られて気恥ずかしくなったが
もう一度目を見てお詫びとお礼を言いたくて、上手く言えるかなとドキドキしつつ
「あの、今日は本当失礼しました・・それとありがとうと滝沢さんにお伝え下さい」
少し屈んでくれた目黒へ向けて緊張したけどちゃんと伝える事が出来た。
ニコッと笑う様を目の辺りにしたら何故か息を飲んでしまった目黒と阿部。
少年なのは分かってるんだが可憐に笑う様子は花が咲くみたいで、2人して見惚れてしまった。
阿部は内心が人たらしな奴だなと、脳内メモを追加。
無自覚に少女本来が持つ素直な人間性を出された目黒は免疫がないから悶絶してる様子が手に取るように分かる。
まあ兎に角大きな騒ぎにならずに終えて良かった、と胸を撫で下ろした。
あまり無自覚にたらし込まないようにね?て注意しとかないとだなあ、と思いながら。