支度を整え部屋から出た深澤は、丁度何かを担いで二階に上がる照を見つけた。
何かを担いだ照はが使っている個室へと入って行く。
つまり、を運んでいた事になる訳で・・気になった深澤もの部屋へ向かった。
一方での個室に到着した照、慎重に小柄な体を床に降ろした。
咄嗟とは言え大人の男を怖がるに対し、安直な行動に出てしまったなと内心はドキドキの照。
「ごめんな、大丈夫だったか?」
「え?」
「佐久間の声がデカイから聞こえてさ・・・スキンシップ、苦手って言ってただろ?」
「スキンシップ・・今のもスキンシップなんですか・・・?」
怯えたりしないよう早めに謝罪してみると、意外な反応が。
なので昨夜不可抗力で聞こえてしまった言葉を口にしてみるも
今のはスキンシップだったのかを逆に問われ
・・・・・・・・・・・・・
照もすぐ答えが出せず、奇妙な間が生まれる。
スキンシップって?どんなのを指すんだろうとか思い始めた。
この場に阿部が居れば何か良さそうな理由を説明してくれただろう。
しかしそれは期待出来ない、数秒黙し二人して首を傾げる。
「いや今のは何だろ、そういうやつとは違うかな・・?」
「・・・照さんや阿部さんは怖くないですよ・・初動動作が見えてれば怖くないです」
「んー、これから動きますよーみたいなのが分かればって事?」
「ですね、佐久間さんは俊敏だから俺から確認出来なくて構えちゃった感じです」
「そっか・・取り敢えずパジャマに着替えとけ、体温計と薬とか持って来る」
「はい」
曰く、完全にスキンシップ?がダメとかではなく
彼の目に相手の最初の動きが見えていて、行動の予想がある程度出来れば近づかれても怖くないらしい。
ただ佐久間の場合だけは動きそのものが早すぎる為、行動が予想出来ず怖いと感じてしまったとの事。
なら佐久間にだけ分かりやすいくらい怯えていたのが理解出来るし納得も出来た。
今までの照の行動に対してはそういう様子がない事から、しっかり予想が出来る動きを自分が出来ているという事になる。
それはそれで嬉しい気持ちになり、一種の癖になりつつあるの頭ワシャワシャをやると
すっくと立ちあがり、の個室を出て廊下へ向かった。
照とのやり取りを個室近くの廊下で聞いていた深澤。
初動動作とか例えがガン〇ムかよ、それと二人しておどおど話とかしちゃって
何だこの初々しい感じの妙な雰囲気、付き合いたてのカップルかよ(笑)入って行き辛いんですけどbyふっか
謎のニヤニヤに襲われ口許が緩んだところで部屋から出て来た照と鉢合った。
部屋を出て左へ曲がり、リビングへ向かおうとした所目の前に誰かが居た事に気づき
キュッと音がしそうなくらい俊敏に照は歩みを止めた。
「立ち聞きかよ、ふっか趣味悪い」
「ちげーよ照が何か運んでの部屋行ったから気になって見に来ただけだって」
「何かってなんだよ(笑)運んでたのは本人」
「やっぱ本人か!てか運んでたって言い方すな、荷物じゃあるまいし」
「いや最初に運んだ言ったのふっかだぞ?」
立ち止まった先にいた深澤に対しあからさまに嫌そうな顔をした照。
それこそ今のやり取りを聞かれた事が妙に恥ずかしいというか
弟相手に何照れてるんだろという気持ちが混ざって余計に気恥ずかしい。
別に変な会話はしてないし、立ち聞きされようと恥ずかしくなる事でもない。
なのだが、何か深澤に聞かれて指摘された事で輪をかけて恥ずかしくなった。
こういう顔はあまり見られたくない、気恥ずかしさから無駄にやり取りはヒートアップ。
「運ぶ運ばないとか荷物かよとか突っ込む前に、の体調を先ず心配しろよ(笑)」
そんなところへド正論がぶっ込まれ照と深澤のやり取りが止まる。
聞こえた声の方を見ると呆れているが半分笑った顔の翔太が居た。
その言葉でハッと気づいた照、今何時かを確認。
腕時計の文字盤に映る数字は9時きっかり、イカンイカン。
「ふっかと漫才してる場合じゃなかったわサンキュー翔太」
相向かいの廊下に立つ翔太へ向けて親指を立て
はあ?と口にした深澤の両肩を手でポンポン叩くと横をすり抜け下へ向かう。
「おい照、何か手伝うか俺も」(ふっか
「え?ああ助かるわ、冷えピタと氷枕頼んでいい?」(岩本
「おっけ」(ふっか
横をすり抜けるように下へ向かう背に深澤は声を掛けた。
元より気になって来たのもあるし、運んでたのが具合の悪いだったのなら尚の事。
呼び止められキョトンとした照も深澤の言葉に笑みを浮かべ頼み事をした。
頼まれたものは熱がある時に用意する物ばかり。
何故彼が熱を出したのかその経緯は分からなかったが、もっと早くそう言えよと内心突っ込む深澤。
注:用意しようとしてた照を止めたのは深澤です
照の言葉に気前よく答えると、深澤も目的の物が置かれているキッチンに向かった。
息の合った二人を見送った翔太はゆっくりと部屋からリビングへ荷物を手に下りて行く。
今日も厳しい稽古漬けの一日になるだろう、帰りは22時は過ぎる気がする。
戸締りはしっかりするよう、改めて翔太もに言おうかなと考え
一度下りた階段を再度、今度は違う方の階段を上がり始める。
「くんおはよー・・・あれ?顔赤いね、やっぱ熱出ちゃったのかな」
そうして覗いたの様子、肌が白いせいでやたらと熱で染まった赤味が目立つ。
咳き込む様子はない事からこれから苦しいかもしれないと予想する。
現れた翔太に気づくとニッコリ嬉しそうにが微笑んだ。
「翔太さんおはようございます、はい・・迂闊にも椅子に座ったまま寝てしまって・・・」
「なるほどね、3月だけどまだまだ寒い日もあったりするからこれからは気をつけるようにね」
挨拶の返しに頷いてから室内に入り、ベッドに腰かけるの前に屈んだ翔太。
少しだけ厳しくも当たり前の事をに注意する。
自己管理が出来ない人間は自堕落な人間にしかなれない。
その自己管理の大事さは分かっているつもりだったが
今こうして熱を出し兄達に迷惑を掛けている時点でまだまだだなと反省しきりだ。
それでも翔太の気持ちが嬉しくて自分なりに思う事をは口にした。
「はい、照さんにも言われたのでもっと気をつけるようにしたいです・・」
「俺らがいつも居る訳じゃないからさ、くんが具合悪い事に気づけないとか悔しいじゃん?」
「あ・・・はい、これからもっとしっかり自己管理するようにしますね」
「うん、くんは素直でイイコだなあ」
自分の事を心配し、考えてくれてるからこその厳しい言葉。
何れ翔太の記憶からは薄れてしまっても、自分だけは覚えていようと決めた。
すると会話が一段落したタイミングで部屋に近づく足音が聞こえる。
急ぎ足で階段を駆けて来る音、それから現れたのは二つの影。
「取り敢えず薬は救急箱のやつがあったから飲んどけ――」(岩本
「おい翔太何抜け駆けしてんだよ」(ふっか
「抜け駆けって何の話?俺先に下行くね、くんは安静にしとくんだぞ」(翔太
パッと現れるなり手にした薬の箱から錠剤を取り出す照。
だがその視線は室内にいつの間にか居た翔太に釘付けになる。
目にした時翔太の手はの頭を撫でているところだった。
深澤の言う¨抜け駆け¨はその事を言っていたのだろう
二人が現れると翔太はに笑顔で寝てるよう言った後早々に部屋を出て行った。
何やら色々と微妙な空気が流れたが、気を取り直して持ってきたものをセッティング。
ベッドに腰掛けただけのの前に照はさっきの翔太同様膝を折る。
「市販薬だけど飲まないよりは良いだろうから薬な」
そう言いながら照が差し出した錠剤と水の入ったコップをは受け取った。
二人の後ろ側では氷枕を持って来た深澤が枕と入れ替えてるのが見える。
錠剤を受け取った、ジッとそれを見てから意を決しフィルムから取り出す。
正直言うとは錠剤が得意ではない。
昔小さい頃飲んだ縦長のカプセル?を飲み損ね
口の中に残ったやつを無理矢理飲み込んだ際の不快感がトラウマになっているのだ。
それからは自分なりに失敗しない飲み方を調べ
錠剤を先に下に乗せるのではなく、水を先に口に含んでからその中に錠剤を入れる方法に変えた。
まあ飲み込めるようにはなったんだが、先ず、水を含んだ口の中に錠剤を放り込み
これから飲み込みます、てなったらすぐには飲み込まず自分の中でタイミングを計り
行くぞ?飲むぞ?と気合を入れてからゴクリとやるのがの飲み方。
今回もそれで行きます( ´_ゝ`)b
ただちょっと見られるのが恥ずかしい・・・
何故なら飲み込む時肩に力が入ってしまい、ビートたけしさんのモノマネをするみたいな動きになるのだ(は?
片方の肩が上がるみたいなやつ・・二人の兄に見守られる中それをやりましたとも。
「――ぶはっ!ちょ、、何その飲み方面白いんだけど(笑)」(岩本
「何だその肩上げる特殊な飲み方(笑)」(ふっか
くぅ・・やはり笑われてしまった!
「気づいたらこういう飲み方になってたんです!」
「あはっ、はははっ!ちょっと何かそれ可愛いわ(笑)」(岩本
「いいねいいよユニークな飲み方(笑)」(ふっか
「とか言ってますけどずっと笑ってるじゃないですかっ」
「はー面白い、もしかしてお前錠剤飲むの苦手だったりする?」(岩本
どうしてわかったんですか?とひとしきり笑ってくれちゃった後鋭いことを言う照さんにマジレス。
肩を竦めるようにして目をギュッと瞑りながら飲んでたから、と照が答える。
爆笑してるけど見てるところは見てるんだなあ(失礼)と感心。
何て言うかバカにしてる笑い方じゃないのが二人の人柄を表している感じがした。
照さんの笑うと声が高くなるのが可愛いなあとまたしても思うであった。
それから体温計で熱を測ってみると39.5℃と出た。
思いの外高熱に近い熱に自分で吃驚する。
の手から体温計を抜き取り自分でも確認してみる照。
そのまま自分の手をと自分の額にあてて比べる。
「高いな・・」(岩本
「一応冷えピタ貼っとこう」(ふっか
「はい」
市販の薬で効果が期待できるのか心配になったが、自分達が医者に連れてってやれない今期待するしかない。
こんな時でも稽古に行かねばならない事を悔やむも、この道で生きると決めたからにはそちらを捨てる事は出来ないのだ。
「大人しく寝てる事にします、見送れないけどお仕事気をつけて行って来て下さいね」
「おう、もし何かあればまたメールかLINEしとけな」(岩本
「そうします」
「遅くなるかもしれないから寝ちゃってても良いからね」(ふっか
「はい」
兄二人の優れない顔色を見て困ってるのだと察し、仕事へ向かうようは促した。
要らぬ心配を掛けないよう振る舞い、布団の中から笑顔で送り出す。
の様子で気を遣っている事を察した照と深澤、何とも言えない気持ちでワシャワシャとの頭を撫でる。
在り来たりな事しか言ってやれない事が不甲斐なく思えて仕方がない。
兄二人に自分の事で気落ちして欲しくないは努めて笑顔で送り出した。
薬の作用で眠くなるだろうし、深く寝てしまえば夢も見ないかもしれないしと前向きに考えることにした。
健気な末っ子に優しく声を掛けると時計を見たりした二人の兄は部屋を出た。
食欲があるのかは聞かなかったが、お粥くらい作っておいてやりたかったなとぼんやり考えながら。
昨晩の嗚咽・・噎せた事以外の理由でだとしたら気になる。
これから一ヶ月、いや・・・6月まで下手するとはずっとここに独りだ。
今回は偶々居る時に気づけたが、今後もそうだとは限らない。
これは・・・に何を覚えさせる為の期間なんだろうか。
独り暮らしの辛さと厳しさ堅実さか?
血の繋がりはなくても家族になれる、それを知って貰いたいと言っていた養父。
でも今の状況はそれを知る以前に、先ず自分達と過ごす時間が少ないのが実情。
一般の家庭ならそれも可能だったかもしれないが・・・・何故そうしなかったんだろう。
今夜だけでも誰か1人でいいから早く帰る事が出来ない物か・・
そうしないと・・は独りでまた泣いてるかもしれない、何故だか照はそう感じた。
「お、来たな。どうだった?」(佐久間
リビングに入る照と深澤を迎えるや質問して来たのは佐久間。
彼がリビングで朝飯中のの様子に逸早く気づいた。
普段騒がしいのが際立つ佐久間だが、ああ見えてメンバーや相手をよく見ている。
ぼんやりした様子で食べる様や、トロンとした目を見て様子がおかしいと判断したらしい。
そのを窺い見る佐久間に気づいたら照も、間接的にの様子に気づいたという感じ。
手早く朝メシを済まそうと早足で冷蔵庫へ向った照と深澤
中からウィダインゼリーを引っ掴み、口を開けてゼリーを口に含みつつ問いに答える。
「39.5℃の熱が出てた」(岩本
「マジで?やばいじゃんどうすんの?」(佐久間
「これからだと医者に見せてあげれないからね、市販薬は飲ませておいたよ」(ふっか
「その薬で熱が下がれば一番良いんだがな・・」(岩本
深澤と二人、佐久間の問いに答えつつ他の面々にも状況は説明しておいた。