ゆきと鬼んべ 上演時間 1時間30分

作 さねとうあきら  演出 大野俊夫  音楽 尾上和彦  美術 栗田川洋  照明 白井良直

 お山は三年ごしの日でりで、ぽちっとも雨がふらねえ年だった。 目のみえないゆきは、猟師のお父うにつれられて、今日もイノシシの番。 そこへ、山オニの鬼んべと天狗の小太郎が獲物を探しにやってきた。 天狗のうちわでパタパタやると、大竜巻がおこり、 三人とも山の墓場「デェデラ谷」に飛ばされてしまった。

 墓場の番人デェデラ坊は、ききんの年に百姓たちが育てきれずに、 土に埋め殺そうとした赤ん坊をほじくり返して育てているのだ。 この日照りは、山の主のりゅうじんが熱病にかかり、雨を降らすことができない体ときいて、 ゆきは、たった一人で、恐ろしいりゅうじんの山へのぼっていく。 命のためだったら、なんもおっかなくねえ。 おらの命は他の命が守ってくれる。どうでもこうでも雨っコ降らしてもらいてえ。

  いっぽう「りゅうじんのすみかからゆきを助け出し、山やサトをすくうには、 りゅうじんを殺さなくてはならねぇ」と山んばからきいた鬼んべは、りゅうじん退治に走る。 お山の魔物は神様のおつかい。鬼でも天狗でも、やらなくちゃなんねぇ仕事がある。 いっぽう、ゆきをさがすお父はりゅうじん山で鬼んべをみつけたが…! 地鳴りと共にすさまじい雷光。りゅうじんがあらわれた。 鬼んべが、りゅうじんめがけてひき金をひいた。 まっ赤な火をふきあげ、りゅうじん岩がくだけちる。





 ●地球時代の夜明けに  さねとうあきら●

 『ゆきと鬼んべ』は、今から二十年ほど以前に、大阪で初演されました。 それ以来、多くの児童劇団、地域劇団によって上演され、わたしの戯曲のうちでも、 ずば抜けて上演回数の多い作品になっています。

 盲目の少女と山鬼の織りなす愛のドラマは、初めて世に出たころには、創作民話劇として扱われました。 たしかに民話作家といわれるほどに、たくさんの民話風の物語を書いたわたしですが、 「ゆきと鬼んべ」の場合は他の作品と違って、モチーフとなった原話がありません。 その意味では、純粋にわたしの創作といえましょう。それでも初演のころは、斉藤隆介さんの創作民話が大評判で、この劇も日本の伝統に即した「やさしさ・健康さ」を訴えていると受け止められました。

 しかし、二十年を超えた上演史のなかで、わたしがしみじみ感じたことといえば、大地(山)と人間の共生をはかるエコロジーの観点こそ、この戯曲を生み落とす創作衝動となっており、二十一世紀の地球規模のテーマを、本能的に先取りしてしまった、ということでした。

 このたびこの劇を手懸けてくれることになった大野俊夫さんは、わたしが最も期待している演出家の一人です。「劇団ブナの木」>の俳優諸君とともに二十一世紀の最大のテーマというべき土と人間の共生に迫り、地球時代の夜明けを告げる成果をあげてもらいたいと、切に祈っています。



劇団ブナの木
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