べっかんこ鬼  上演時間 1時間30分

作 さねとうあきら  演出 大野俊夫  音楽 尾上和彦  美術 栗田川洋


 フエフキ峠に、いっぴきの鬼がすんでいた。 それがとんでもないおかしな顔で、角はヤギみたいにねじまがり、 ゲジゲジまゆ毛が八の字にひらいていて、どんぐりまなこ。 おまけにしょっちゅうデローンとべろがのぞいていて、ベッカンコづら。

 あつい夏のさかりだった。 鬼は、里の娘ユキにであった。 目のみえねえユキは、墓場の、死んだおっ母にいっしんに話しかけてたんだ。 「おっ母がいねえから、おら、村のわらしどもにいじめられてばかりだ。 もうおら、里にもどりたくねえ。おっ母の墓もりして、ここにいてえだよ。」 それをきいた鬼は、「うおーッ!」とさけぶと、ユキをヒシとかかえて、ズンドコズンドコ走りだした!

 山のもんと里のもんはいっしょにすめねえのが、山のならわし…。 でも、いつかふたりの心はかよいあい、鬼とユキは夫婦になった。 ふたりは幸せだったが、ユキには一つだけくやしく思うことがあった。 「おめえさまのベッカンコ面もみたことねえのが、さびしくて・・・。」 鬼は、そうでも、ユキの目をあけてやろうと思った。 山の主の山母さまは、谷間にたった一本だけあるリュウガン草の話をした。 その草の根っこの汁を目にぬれば、みえぬ目はなおるんだ。 「だが、その草には、のろいがかかっていて、草をみつけたばかりに、命をなくすやつもいる。 それでもよいか、鬼?」 「かまわねえでがすョ、山母さま!」鬼は、ズシンとこたえた。

 そのころ、ユキのお父うの猟師は、鬼をさがして山んなかを何日も、あるきまわっていた。 ユキがいなくなった墓場のあたりに、鬼の足あとが、ドカドカついていたので、 さらったのは鬼だとわかったのだ。 「ちきしょう、ユキのかたきをとってやる!」 猟師は心にきめたんだ。そして―




 ●心に問う物語●

 さねとうあきら氏の「べっかんこ鬼」は、 演劇はもちろんオペラ・人形劇・映画など様々な形に制作されている。 『村の誰からも疎外された盲目の娘を愛することができたのは、 鬼仲間からも疎んじられたべっかんこ鬼だった! そして、べっかんこ鬼が愛を完成させようとしたとき、彼を待っていたのは「死」であった。』

 しかし、疎外され差別された者の鬼の中に、もっとも美しいものが輝いていることをこの話は語っている。 そこのは作者の優しいまなざしと強い信念が流れている。

 さねとう氏は後に同和文学とも呼べる世界を拓き、「べっかんこ鬼」はその源流とも云える作品である。 そして、そうした氏の作品創造の姿勢から、 彼こそ確かな目と骨太な精神をもつ児童文学の第一人者であると考える。

 私たちは、氏の精神を追いかけながら、舞台化するとき、 現代社会の抱える様々な問題の根っこと向き合うことになるだろう。 地域や社会・学校でも、競争原理のひずみから生まれたヒステッリクないじめや差別はあとをたたず、 何を目指して生きるにか誰もがみえなくなっておる今日、 賢く確かな本当の目をこのお芝居を通して見つけたい。 そして、苦しい渦中にある子供たちが、一人でも希望を見つけ出してもらえたら私たちは幸甚の至りである。


劇団ブナの木
〒379-2111 群馬県前橋市飯土井町631−3
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