フエフキ峠に、いっぴきの鬼がすんでいた。
それがとんでもないおかしな顔で、角はヤギみたいにねじまがり、
ゲジゲジまゆ毛が八の字にひらいていて、どんぐりまなこ。
おまけにしょっちゅうデローンとべろがのぞいていて、ベッカンコづら。
あつい夏のさかりだった。
鬼は、里の娘ユキにであった。
目のみえねえユキは、墓場の、死んだおっ母にいっしんに話しかけてたんだ。
「おっ母がいねえから、おら、村のわらしどもにいじめられてばかりだ。
もうおら、里にもどりたくねえ。おっ母の墓もりして、ここにいてえだよ。」
それをきいた鬼は、「うおーッ!」とさけぶと、ユキをヒシとかかえて、ズンドコズンドコ走りだした!
山のもんと里のもんはいっしょにすめねえのが、山のならわし…。
でも、いつかふたりの心はかよいあい、鬼とユキは夫婦になった。
ふたりは幸せだったが、ユキには一つだけくやしく思うことがあった。
「おめえさまのベッカンコ面もみたことねえのが、さびしくて・・・。」
鬼は、そうでも、ユキの目をあけてやろうと思った。
山の主の山母さまは、谷間にたった一本だけあるリュウガン草の話をした。
その草の根っこの汁を目にぬれば、みえぬ目はなおるんだ。
「だが、その草には、のろいがかかっていて、草をみつけたばかりに、命をなくすやつもいる。
それでもよいか、鬼?」
「かまわねえでがすョ、山母さま!」鬼は、ズシンとこたえた。
そのころ、ユキのお父うの猟師は、鬼をさがして山んなかを何日も、あるきまわっていた。
ユキがいなくなった墓場のあたりに、鬼の足あとが、ドカドカついていたので、
さらったのは鬼だとわかったのだ。
「ちきしょう、ユキのかたきをとってやる!」
猟師は心にきめたんだ。そして―
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